AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『増補改訂版 浪曲論』は、稲田和浩さんの著書。明治から昭和初期まで大衆芸能の玉座に君臨した浪曲の隆盛と衰退、そして今を、100近い浪曲台本を書いてきた演芸作家が、痛快にその隆盛の要因や魅力などを徹底的に分析、紹介してくれる。じつに読みやすい筆致なので、浪曲ってなあに、という超初心者にもよくわかる入門書としても楽しめる。古臭いと敬遠されがちだった浪曲の根底にある「普遍的な人間の営みの哀しさ」を再発見させてくれる。稲田さんに同書にかける思いを聞いた。

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 2013年に本書の旧版が出版されたとき快哉を叫んだものだ。明治期から昭和30年ころまで娯楽の覇者だった浪曲が衰退の危機にあえいでいたとき、人気スター国本武春の登場で浪曲界が蘇ってきたところだった。ところが国本で初めて浪曲の存在を知った大勢のにわか浪曲ファンを導いてくれる本など皆無だった。もちろん専門の研究書はあった。しかし浪曲という芸能がどんな芸能で、どんな歴史を持ち、どんな作品があり、国民がこぞって泣き笑いしてきたこの芸能の姿をわかりやすく面白くその全体像を紹介してくれる本の登場など前代未聞だったのだ。

 稲田和浩さん(62)は、多くの著作をもつ演芸作家で浪曲の台本作家としてもこれまで100近い作品を浪曲界に提供してきた。9年ぶりに改訂版が出版されるほど近年目覚ましい変化が浪曲界に起きている。

「やはり旧版が出て2年後に国本武春が55歳で急逝してしまったのが大きかった。彼の残したものをきちんと書いておきたかったし」

 救世主国本の死でまたもや浪曲はこれで終わったなどとまことしやかに囁かれるなか、その背中を追いかけてきた玉川奈々福や玉川太福の活躍で今やちょっとした浪曲ブームまで起きている。大御所たちも次々と鬼籍に入った。奈々福は辣腕のプロデュースで異業種との話題のコラボレーションを次々とぶち上げるし、太福は寄席の定席に出演し落語ファンも抱腹絶倒させる革命的作品を自作自演し若いファンを浪曲の定席木馬亭に呼び込んでいる。確かに状況は嬉しい変化を見せている。

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