AERA 2022年9月19日号より
AERA 2022年9月19日号より

「半径3メートルとは、顔が見えて『ちょっとちょっと』と声をかけられる世界。どんなに出世しても、人間は半径3メートルに幸せがないと、人生の満足度は高くなりません」

 経済成長した時代、人は遠くばかり見ていた。それは30年以上前の話。今こそ、足元を充実させるべきと河合さんは言う。

「道を歩いていて、おばあさんがつらそうだったら、『お手伝いしましょうか』と声をかけてみる。些細なことでも『愛をケチらず』充実させていけば、自身が持つエネルギーが引き出されていく。転職したいとかもっと勉強したいとか、意欲が自然にわく。その時アクションを起こせばいい」

 前出の大分の女性も、まさに身近な人との関係の充実を経て、アクションを起こした。

 金が価値観の基準になる時代は終わり、いまは価値観を転換するチャンスなのかもしれない。

「東日本大震災のとき、『社会の価値観が変わった』とさんざん言われましたが、半年後には多くの人は忘れていた。『絆』という美しい言葉は何だったのか。でも、被災地では厳しい状況の中で立ち上がった人たちがいました。彼らがなぜ力を得られたか。それはやはり、半径3メートル世界の充実なんです」

 ある人は仮設住宅の中で、ある人はかつての仲間たちと。半径3メートルで愛をケチらずに誰かのために何かしようとした。3.11では被災地以外の多くの人は変わらなかったが、今こそ変わるべきと河合さんは言う。

「若い人たちはSNSを使いこなし、楽しそうに見えるかもしれません。ではなぜ彼らの自殺率が高いのか。半径3メートル世界の空気の中で、生きる力が引き出される経験がないからでは。SNSだけでつながっていても、孤独なんです」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2022年9月19日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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