ホワイトボードの文字は3.5~4センチ四方の「葉一フォント」。教え子に感想を聞きながら完成させた(撮影/馬場岳人)
ホワイトボードの文字は3.5~4センチ四方の「葉一フォント」。教え子に感想を聞きながら完成させた(撮影/馬場岳人)

 教育YouTuber、葉一。葉一の作る授業動画「とある男が授業をしてみた」は、ホワイトボードを使って説明するシンプルなもの。登録者数は179万人、動画は無料で公開される。誰も取り残される子を作りたくないという思いで作る。根底には、生きる意味を見いだせなかった自分がいる。それを子どもたちが救ってくれた。今度は、自分が子どもを救いたい。

【写真】葉一さんが「幸せでした」と語った映画「こどもかいぎ」公開前イベントの様子

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「めっちゃくちゃ緊張してます。初めて会う子どもたちだし、壁をどう取っぱらっていくか……」

“子ども大好き”を公言する教育YouTuber葉一(はいち)(37)は顔をこわばらせていた。その日、保育園児が本気で話し合う日常を描いた映画「こどもかいぎ」の公開前イベントがあり、小学2年生6人と行う会議の司会役を任されていたのだ。

 が、子どもの控室に入って数秒後、「ハイチューでしょー!」と叫ぶ女子たちが葉一に次々と覆いかぶさった。「ハイチなんだけど、いいや」という声もかき消され、もみくちゃになってしまった。

 会議もそのままの勢いで活発に議論が進み成功したように見えたのだが、葉一は反省顔である。

「一人おとなしい子がいて、うまく喋(しゃべ)らせることができなかったので申し訳なかったなって」

 取り残される子を作りたくないという姿勢は、179万人の登録者数を誇る彼のYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」でも貫かれている。中学生が3年間で学ぶ5教科、小学3~6年の算数、加えて高校の数学は、教科書改訂の影響で一部未収録はあるが、ほぼ全単元を網羅する。躓(つまず)きやすい単元を中心に配信するYouTubeもあるが、葉一はそうはしない。

「躓きやすい単元中心の方が再生数は増えるんです。でもそれだとすべての子を救えないですよね。それは自分が許せないので」

 動画の視聴はすべて無料。1回十数分の授業動画では、ホワイトボード一面にポイントを絞り込み、説明は簡潔で頭に入りやすい。例えば162万回再生の中学1年数学の「正負のたし算・ひき算」の回。(-3)+(+7)と正負の足し算は“敵”、(-4)+(-8)のように負同士のそれは“味方”という独自の表現で捉えて、前者は引き算、後者は足し算しようと明快に教える。

「わかりやすさ」には定評があり、「テストの点が上がった」「躓くたびにみています」「分かるまで何度でも見返せる。数学に苦手意識がなくなった」……といった声が寄せられる。

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