『ロシア点描まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(1760円〈税込み〉/PHP研究所)ロシアがウクライナへ軍事侵攻し、激しい戦争が続く中で執筆されたという本書。ロシアに暮らす人々、住まい、地下空間が広がる都市、食生活など、「衣食住」の視点からロシアとロシア人の魅力を紹介する。同時に、「大国」ロシアの国際関係からプーチン大統領の秩序観を読み解く。あらためて「ロシアとはなにか」を考えるために読むべき本だ
『ロシア点描まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(1760円〈税込み〉/PHP研究所)ロシアがウクライナへ軍事侵攻し、激しい戦争が続く中で執筆されたという本書。ロシアに暮らす人々、住まい、地下空間が広がる都市、食生活など、「衣食住」の視点からロシアとロシア人の魅力を紹介する。同時に、「大国」ロシアの国際関係からプーチン大統領の秩序観を読み解く。あらためて「ロシアとはなにか」を考えるために読むべき本だ

「けれど戦争が始まったからといって、ロシア人を差別してはいけないし、ロシア人を知ることの意味は依然としてあるわけです。ロシアを『異質な怖い他者』として見るのではなく、素顔がわかるガイドブックがあるといいな、と、思いました」

 確かに開戦当初、日本でもロシア関係の店舗が嫌がらせを受けるなどした。一方で、日本人はどれだけロシア市民や文化のことを知っているのかといえば、心もとない。

 小泉さんが紹介するロシアの人たちは一筋縄ではいかない。「ロシア人には他者への不信と信頼が同居している」が、同時に「ロシア人は特にロシア人を信用しない」という複雑さもある。

 週末を過ごすダーチャ(別荘)のコミュニティーや、モスクワに広がる謎の地下空間、そして食と酒。楽しい章立ては、最後にロシアの国際関係とプーチンの権力をめぐる考察になる。

「今回の戦争について、一番の責任はプーチンにあり、国民が積極的に侵略戦争を支持したわけではないとしても、なぜロシア国民のなかからプーチンのような指導者が生まれてきてしまうのかは、別に考えなければいけない問題です。悪いのはプーチンで、ロシア人ではないという見方も単純だな、と思います」

 ロシアの街や人々から、「大国」としての歴史、そして現状まで。小泉さんの眼を通して、幅広い解像度でロシアを知ることができるだろう。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2022年8月1日号