大串敦(おおぐし・あつし)/1973年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。専門はロシア政治、旧ソ連諸国の政治学、比較政治学(写真:本人提供)
大串敦(おおぐし・あつし)/1973年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。専門はロシア政治、旧ソ連諸国の政治学、比較政治学(写真:本人提供)

「その本人たちがSNSで『火炎瓶を作った』と投稿しているのを見ると、まず心から『死なないで』と思う。ただ、当の本人は戦う覚悟を決めていて、それに対して『逃げろ』などと言うのはおこがましい話。だからといって『がんばれ』と言って死んだら、どうしたらいいかますますわからない。当人たちの判断に委ねるしかない。日本の言論空間で『ロシアが核兵器を使ったら困るからウクライナは降伏を』などと言う人がたくさんいますが、ウクライナ世論やゼレンスキー大統領に届くわけもなくほとんど無意味だと思います」

■決して明るくない今後

 ただ、客観的に言えることはあるという。今後の見通しが決して明るくないことだ。

「ロシアは両人民共和国を国家承認し、クリミア半島についても一切譲る気はない。(侵攻を開始した)2月24日のラインが交渉条件とするウクライナも、仮に軍がそのラインまで押し込めば『はいここまで。両共和国はウクライナの領土ではなく、クリミアも諦める』となるとは思えません。国内世論的にも『もっと行け』となるでしょう。双方が止まれないし、止まらない。米国はロシアから見ると中立国ではないので仲介は難しいでしょうが、超大国の米国か中国が強い態度で仲介に乗り出すなどしない限り、どちらかが矢尽き刀折れるまで戦い続けるのだろうと。大変不幸なことですが、そういう見通ししか持てないのが現実です」

 その米国ではニューヨーク・タイムズ紙やキッシンジャー元国務長官が、「(ウクライナの)指導者は領土で痛みの伴う決断を」(同紙)などと領土の譲歩を促す論説、主張をそれぞれ発表。5月31日にはバイデン大統領が同紙に「プーチンをモスクワから追放しようとしない」「ロシアに苦痛を与えるためだけに戦争を長引かせることはしない」などと寄稿した。

「バイデンの寄稿には『ロシアを追い詰めすぎないほうがいい』という意思があるのかなと、推測しています。ロシア内政の転覆まで意図しているとロシアが理解すれば、徹底抗戦となるでしょうし、また、仮にロシア国内が混乱し内戦が起きるような事態になれば、現状よりも大変です。そこまでの事態を望んでいるわけではないというメッセージが込められているのかもしれません」

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