弁護士をしつつ昨年から都議に。「17歳のときに38歳でこうなっているとは想像できなかった」(撮影/植田真紗美)
弁護士をしつつ昨年から都議に。「17歳のときに38歳でこうなっているとは想像できなかった」(撮影/植田真紗美)

 東京都議会議員・弁護士、五十嵐衣里。中学時代にいじめにあった。当時のことはあまり記憶にないと言う。学校に行けなくなり、アルバイト生活を始める。バイト先を理不尽な理由でクビになり、労基署に相談するとバイト代が出た。これをきっかけに法律に目覚め弁護士に。もっと問題解決ができると思い、昨年、東京都議会議員になった。都議と弁護士の二足のわらじで、目の前の課題に取り組む。

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 ロシアがウクライナに侵攻した翌日、東京都議会議員の五十嵐衣里(いがらしえり)(38)は、動いた。

 東京都議会立憲民主党の政調会長に、都議会で軍事侵攻に反対する決議をしたい旨を伝え、その日のうちに自ら決議案の草案づくりに入っていた。いかにも、という素早い反応だった。

 自身の行動を五十嵐はこう振り返る。

「戦争が始まったと思った。じゃあ、私に何ができるかとなったら、結局何もできないじゃないですか。でも、東京都議会の総意として戦争に反対だと言うべきだし、悪いものは悪いって言ったほうがいいと思ったんです」

 新聞記事を読み込み、ウラジーミル・プーチンの発言を拾い、草案をつくった。決議案のひな型から外れる「東京都議会はウクライナの市民に寄りそう」といった文言が削られたりしたものの、3月3日、「ロシア軍の即時撤退を求める決議案」は、全会派の共同提案として、本会議において全会一致で採択された。

 30歳で司法試験に合格し、国会議員の政策担当秘書を4年間務めたあと、五十嵐が東京都議に初当選したのは、2021年7月のこと。弁護士、政策担当秘書、都議会議員とわずか8年足らずの間にめまぐるしく仕事は移り変わった。

 劇的人生の、すべての始まりは、中学2年のときのいじめだった。通っていた静岡市内の中学は、当時、ひどく荒れていた。学校内では、誰かがあたかもローテーションで常にいじめを受けているような状態で、五十嵐にもその順番は回ってきた。ポケベルには、「キモイ、シネ」と言った言葉が並んだ。「当時のことは、記憶を消している感じなんですよね。つらいから」と言葉を選びつつ当時をこう振り返る。

「いじめはみんなに対してきつかったけれど、私は、プライドがあったから、本当に嫌だった。自傷に走ったりはしなかったけど、自分なんてと自信をなくしていたら、どうなっていたかわからない。強くみせるために茶髪にしたりして、悪い友だちから自分を守っていました」

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