大統領との面会に先立ち、記者会見を行ったBTS。メンバーたちは「ヘイトクライムに歯止めをかけたい」(JIMINさん)などと語った(photo Getty Images)
大統領との面会に先立ち、記者会見を行ったBTS。メンバーたちは「ヘイトクライムに歯止めをかけたい」(JIMINさん)などと語った(photo Getty Images)

 BTSがバイデン米大統領に招待され、ホワイトハウスを訪れた。K-POPグループがなぜ、米大統領に会えたのか。AERA 2022年6月13日号より紹介する。

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「あなたたちの偉大な才能だけでなく、発信しているメッセージが重要なのです」

 バイデン米大統領がツイッターで公開したビデオで、韓国出身の人気グループBTSに語っていた言葉だ。

 BTSは5月31日、米国のホワイトハウスを訪問し、バイデン氏と話し合った。驚いたことに、バイデン氏は大統領執務室(オーバルオフィス)に、BTSを招き入れた。各国大使や閣僚以外に、米国内のアーティストでさえ入れたのは見たことがない。しかも、アジアでしか知られていない「指ハート」で記念撮影した。アジア系のミュージシャンで招待されたのも「極めてまれ」だとされ、「初めて」尽くしの一日だった。

■世界的に影響力がある

 実は、BTSがホワイトハウスに招待された5月31日は、アジアや太平洋諸島系にルーツを持つアメリカ人の文化や歴史を学ぶ「アジア系米国人・ハワイ原住民・太平洋諸島民(AANHPI)文化遺産継承月間」の最終日。そこで、社会問題となっているアジア系住民に対するヘイトについて、BTSと語り合うというのがホワイトハウスの狙いだ。

 なぜなら、BTSはすでに活動家としての「顔」を持っている。彼らのメッセージは、アーティストであるがためにアジア系を超えて世界的に影響力がある。さらに、中間選挙の年に若い有権者にアピールするという戦略もあっただろう。

 昨年3月16日、南部ジョージア州アトランタのマッサージ・スパが白人男性に次々に銃撃され、8人が死亡、うち6人がアジア系女性だった。アジア系コミュニティーでは、特定の人種を狙ったヘイト犯罪であるとの危機感が広まった。BTSはこの直後、ツイッターで声明を出した。

「愛する人々を失った方々に深い哀悼の意をお送りします。私たちは、あなたたちの悲しみと怒りを感じます」「私たちもアジア系として偏見にあった時のことを思い出します。何の理由もなく罵られることに耐えなくてはならず、見た目についてからかわれました。さらに『アジア系なのに、なぜ英語を話すのか』とさえ聞かれました」「私たちは、人種差別に対して立ち上がります」

■「お力になりたかった」

 このツイートは現在、250万「いいね」を集め、リツイート数も100万を超えている。

 米国で増えるアジア系へのヘイト犯罪に対し、上下院議員やハリウッドの俳優らがソーシャルメディアを使って哀悼の意を示し、声をあげることはある。しかし、アジアを拠点にする有名人が声明を出すのは、ほとんど聞いたことがない。

 ニューヨーク在住のライター・作家でBTSのファンでもある黒部エリさんはこう指摘する。

「BTSもアジアから海外に進出する際、アジア系というだけでなく、お化粧をしているというルックスについても批判されたことがあった。パキスタンでは同性愛を肯定し、誘発するとされて看板が撤去されたこともある。つまり、人種だけでなく、同性愛への偏見も重なった。そこで、人種差別の問題が起きると、パッと立ち上がってくれる。世界にいるファンに対しての発信力が素晴らしいんです」

 米連邦捜査局(FBI)によると、アジア系に対するヘイト犯罪は新型コロナ感染拡大と時期を同じくして2020年、前年比73%増の279件となった。しかも、被害者の7割近くが女性に集中している。

 リーダーのRMさんは、大統領にこう語った。

「少しでもお力になりたかったのです。ホワイトハウスと米政府が、この問題の解決策を見いだそうとしていることに心から感謝しています」

(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2022年6月13日号