人工中絶は違法になるとされる最高裁判事意見書草案に反対するため、ニューヨークに急きょ約千人が集まった/5月4日(写真:津山恵子)
人工中絶は違法になるとされる最高裁判事意見書草案に反対するため、ニューヨークに急きょ約千人が集まった/5月4日(写真:津山恵子)

 11月8日に行われる米中間選挙まで半年を切った。国民の関心は、長期化するロシアによるウクライナ侵攻の影響による米経済の行方だけでない。女性が人工中絶を選ぶ権利にも注がれる。中間選挙の争点は何か。AERA 2022年5月23日号は、揺れる米国の現状を報告する。

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 リベラル派市民を中間選挙に駆り立てるようなニュースが流れた。政治ニュースサイト「ポリティコ」が5月2日、「女性が人工中絶を選ぶ権利は憲法で保障されている」という過去の連邦最高裁判例について、現在の最高裁内で書かれた保守派判事の多数意見草案をスクープしたのだ。人工中絶の権利を認めた1973年の判例を覆す内容で、リベラル派市民が「反対」を訴えて立ち上がり、全米でデモが広がっている。

 人工中絶を女性の権利とするかどうかは、リベラル派も保守派も決して譲れない、国を二分する論争だ。それだけに、中間選挙で劣勢とされる民主党の大統領に指名されたリベラル派の最高裁判事側がポリティコにリークしたのではないかという指摘さえある。最高裁は保守派判事が多数を占めているため人工中絶の権利は失うことになりそうな様相だが、それに対してリベラル派市民が怒りを見せている。

 20年のトランプ政権時に起きた黒人の権利を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」は下火になった。今も、白人あるいは白人警官による黒人殺害は減少していない。さらに、米市民の多くが認めている人工中絶の権利について、保守派最高裁判事が約50年前の「違法」状態に戻そうとしている。

 次に保守派がターゲットとするのは、LGBTQなど性的少数派の結婚の権利とも言われる。

 人権問題でこれだけの「後退」があったことで、民主党の巻き返しの動きも目立ってきた。

 バイデン大統領は4月下旬、オハイオ州を訪れた際、人種や性差別を教える教師らを前に珍しく語気を強めた。フロリダ州のロン・デサンティス州知事(共和党)や州教育当局が、白人至上主義を非難する内容が含まれているとして54種類の数学の教科書の採用を却下すると発表した直後だ。このうち数十の教科書出版社は、言及があった表現を削除し、採用を認められた。

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