子どもたちが受けた性的虐待の訴えを巡り、“虚偽告訴”として被害者側を攻撃するビラがばらまかれた(撮影/朝日新聞記者・南彰)
子どもたちが受けた性的虐待の訴えを巡り、“虚偽告訴”として被害者側を攻撃するビラがばらまかれた(撮影/朝日新聞記者・南彰)

 文部科学省によると、2020年度に「性犯罪・性暴力等」、11~19年度に「わいせつ行為等」で処分された公立学校の教師の合計は2182人に上る。被害を受けた子どもたちが声を上げにくい構造があるという。AERA 2022年5月16日号から。

【性暴力等で懲戒処分を受けた公立教員数はこちら】

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 ロシアによるウクライナ侵攻を受けて開かれた4月11日の国連安全保障理事会の緊急会合で、国連女性機関(UNウィメン)のシマ・バホス事務局長は、「レイプや性的暴力について耳にすることが多くなっている。これらの疑いは、正義と説明責任を果たすため、独立して調査されなければならない」と訴えた。

「言葉も出ないほどの犯罪」と非難した出席国に対し、ロシアの国連大使は「推定無罪が踏みにじられている」と反論したが、国際人権団体などがロシア兵による性的暴行に関する調査を進めている。外部の侵略者が行った疑いが強まる性暴力に対して、「残酷」「蛮行」といった怒りと悲しみが日本国内でも広がっている。

 しかし、私たちの社会は、自らのコミュニティーで性暴力を訴え出た被害者の声に向き合ってきたのだろうか。

 20年間の記者生活のなかで、いまでも忘れられない出来事がある。公立小学校に通う複数の児童が担任教師から受けた性的虐待を訴えた事件で、市長が市議会でこう断じたのだ。

「刑事裁判では最終的に『事実はなかった』と断定された」

 地域社会には「荒唐無稽(こうとうむけい)な訴え」「虚偽の告発で教諭と家族に汚名を着せ、抹殺を企んだ者は虚偽告訴罪が該当する」といった被害者側を攻撃するビラが大量にまかれていく。そして、PTAや福祉関係の団体の多くも「騒げば学校の評判が下がる」「私たちは関われない」などと言って、子どもたちの訴えを黙殺していった。

 子どもたちがフラッシュバックや悪夢に苦しみ続け、大学病院で「性的虐待の疑いがあるPTSD」という診断が出ているにもかかわらずだ。

 この事件では、暴行を否認する教師を学校ぐるみで擁護して十分な調査を行わず、市長が教師にヤメ検弁護士まで紹介していた。刑事裁判ではその弁護士が証人尋問で「お母さんと練習した?」と揺さぶり質問攻めにしながら、子どもたちの証言を混乱させた。その結果、刑事裁判の裁判官は子どもたちの訴えについて、「わいせつ被害を受けたという部分については、疑問を差し挟む余地がないようにも思われる」としながらも、被害を受けた日時と場所の証明が不十分として、教師に無罪の判決を出した。

 無罪判決は「事実はなかった」という学校側の主張を勢いづかせ、民事裁判で最終的に被害が認められるまで、7年もかかった。

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