(左から)ウクライナ・ゼレンスキー大統領、ロシア・プーチン大統領
(左から)ウクライナ・ゼレンスキー大統領、ロシア・プーチン大統領

 ロシアによるウクライナ侵攻に終わりが見えない。プーチン大統領は、国際社会から非難を浴びながら、民間人への攻撃も続けている。プーチン氏の暴挙の背景には何があるのか。AERA 2022年4月25日号は、亀山郁夫・名古屋外国語大学学長に聞いた。

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 同じスラブ民族からなるウクライナとロシアは、ベラルーシとともに「兄弟」関係にあり、ウクライナはある意味で兄的な存在ということができます。これはむろん、歴史的に右派が培ってきた思想です。同時に、ロシアにとってウクライナは「母」の位置にあるといっても過言ではありません。そうであるなら、今回のウクライナ侵攻とそれに伴う虐殺は、「母殺し」、あるいは「親殺し」という要素を含んでいるのだろうかと、この間ずっと思い続けています。

 最新の世論調査で、ロシア国内でのプーチンに対する支持率は80%を超えました。この数字を「フィクション」とする見方もありますが、私はそうは考えません。裏を返せば、この数値は、今、国民が感じている恥辱と絶望のバロメーターでもあります。プロパガンダでいかに洗脳されているとはいえ、だれもが異常事態に気づいている。「嘘」に気づくことへの恐怖が、逆に巨大な権力への迎合となって表れているのです。ただし、プーチンに対する実質支持率は、これらの要素を取り除いても、50%を超えると思っています。

 理由は、ロシア国民の精神性そのものに見ることができます。

 ロシア国民は、基本的に政治に無関心であり、「成り行きまかせ」です。「成り行きまかせ」という言葉は、最近たまたま再読したスベトラーナ・アレクシエービッチの『チェルノブイリの祈り』の中に見いだしました。私流に言いかえると、一種の運命論に支配されている。「成り行きまかせ」は、第一に放縦を生みます。放縦と自由の間に境界線はありません。そこで彼らは、放縦の奈落に身を落とさないようにするため自分たちを厳しく律してくれる束縛、つまり「縛り」を必要とするのです。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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