写真はイメージです(gettyimages)
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 コロナ禍で鉄道利用者が激減し、特に地方鉄道が存続の危機にある。国土交通省は関係者と協議を始め、JR西日本もサービス見直しを表明した。維持できる方策はあるのか。AERA 2022年3月21日号は、専門家などに聞いた。

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 国内や欧州の公共交通に詳しい関西大学の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は、コロナ禍で日本の鉄道が置かれた問題が顕在化したと指摘する。

「鉄道は社会資本であり、極めて公益性の高いインフラです。しかし、日本の鉄道は鉄道事業法によって法律上、民間企業が全てを独立採算で賄うのが原則。赤字は事業として失敗で、ときに無駄遣いなどと批判されます。このような考え方をするのは先進国では日本ぐらいです」

■「経営の見直しは当然」

 宇都宮教授によれば、鉄道は本来、初期投資の負担が大きく設備の維持にかかる固定費が重い分、収益は上がらないという。だが、日本は60年代の高度経済成長期に、他の先進国には見られないスピードで人口が増え都市化が進んだことで殺人的な混雑をもたらす利用者増があり、また、沿線力や地価の上昇で投資分も回収することができた。その結果、多くの鉄道事業者が利益を上げる世界でも稀有(けう)な成功を収め、鉄道は黒字経営が当たり前という社会通念が広まったという。

「しかし実態は、東京や大阪など大都市圏と新幹線からの営業利益を『内部補助』することで地方路線を支えてきたのです。地方路線の維持は鉄道会社がいわばボランティアで行っているようなもの。人口が減少して車社会になり、そこにコロナが追い打ちをかけたことで、もはや今までの枠組みでは通用しなくなっています。JR西日本が地方路線の経営見直しを訴えたのは、ある意味、当然のことです」

 鉄道は、高齢者や学生ら移動に不便な「交通弱者」にとって大切な足であり、鉄道が消えれば地域の明かりも消える。

 復活の活路はあるのか。宇都宮教授は、鉄道事業者で負担しきれないところは「上下分離方式」で進めるべきだと指摘する。

「インフラ部分は社会で支えましょうという考えで、公共交通を共有財産と考える欧州の鉄道では一般的です」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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