1月3日に開かれた「大人食堂」。開始前には200人近くが並んだ(撮影:野村昌二)
1月3日に開かれた「大人食堂」。開始前には200人近くが並んだ(撮影:野村昌二)

「家もない、仕事もない。まさか、正月を路上で過ごすとは思いませんでした」

【写真】食料を受け取る人たち。女性の姿も目立った

 1月3日、東京都千代田区の聖イグナチオ教会で開かれた「年越し大人食堂」。食料配布の最前列に並んでいた男性(58)は、思いつめた表情でつぶやいた。

 大人食堂は、新型コロナウイルスの影響で困窮する人を支援しようと、新型コロナ災害緊急アクションや反貧困ネットワークなど複数の団体が主催。弁当以外にも、おむつや生理用品なども配布した。

 正午開始の3時間ほど前から人が並びはじめ、開始30分前には200人近くが寒空の下、列をつくった。中高年男性が多いが、若い女性も少なくない。中には、小さな子どもを連れた母親の姿もあった。

 冒頭の男性は、半年ほど前に働いていた飲食店が倒産した。やがて家賃を払えなくなり、住んでいたアパートを追い出された。上野公園や池袋のガード下などで野宿をして過ごすという。

「寝袋があるけど、寒くて寝られない」

 この日も寒さで寝られず、上野公園から歩いて4時間近くかけ、ここに来たという。持ち物はリュックサックが一つで、所持金は1千円あるかないか。こうつぶやく。

「家があって、仕事があって、風呂にも入れて、人として最低限の暮らしをしたいです」

 コロナが長引く中、雇用情勢は改善傾向にあるものの、生活困窮の長期化が深刻になっている。厚生労働省の集計によると、全国の自治体に設置されている生活困窮者向けの相談窓口「自立相談支援機関」に2021年度上半期(4~9月)に寄せられた新規の相談件数は30万7072件。これは、感染が拡大する前の19年度同期(12万4439件)の約2.5倍に上る。

 特に非正規雇用や女性の働き手が多いイベント関係や宿泊、飲食業などの苦境は継続している。

「一生懸命に働いて税金もちゃんと払ってきたのに。国は何もしてくれない」

 大人食堂に電車を乗り継いで来たという中野区に住む男性(53)は、怒りをぶつける。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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