知識と情熱。両方に裏付けられた優しさで、町工場に愛と勇気と希望をふりまく(写真/関口達朗)
知識と情熱。両方に裏付けられた優しさで、町工場に愛と勇気と希望をふりまく(写真/関口達朗)

 キャディ代表取締役、加藤勇志郎。ものづくり大国ニッポン。そのキャッチフレーズは崩壊寸前だ。大企業に忠誠を尽くした結果の裏切りで、町工場が消えていく。救世主になるかもしれない男が現れた。加藤勇志郎、30歳。世の中のニーズと町工場をネットで結びつける。開成、東大、マッキンゼー。エリート街道を捨ててのいばらの道。どこかの町工場が、きっとヤツを待っている。

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 2020年。新型コロナウイルスの感染拡大で、恐怖が世の中を覆った。未知のウイルスに人は苦しみ、多くの人が亡くなった。人がいない街の様子や、不眠不休で戦う医療従事者たちの姿がニュースとして伝えられた。家庭から、医療現場から声が上がった。マスクが足りません。空気清浄機が足りません。医療機器が足りません……。

 足りない尽くしに、加藤勇志郎(かとうゆうしろう)(30)が立ち上がった。世の中のニーズと町工場をネットで結ぶ会社「キャディ」の代表取締役である。取引のある大手メーカーや全国の町工場に呼びかけた。

 日本中のみなさんのために、作りませんか!

 町工場は、超ミクロにこだわっている仕事場である。図面さえあれば見事に作り上げる。それがプライドである。たとえば加藤は、空気清浄機メーカーの要望をまとめた。月産10台だったけれど、一気に1千台にまで増やしたい。「部品が足りません。うちの既存の取引先だけでは対応できません」と図面を託された。キャディのシステムで、最適な町工場をピックアップ。東北から九州までの20社ほどに、生産を振り分けた。

 家庭用マスク、医療用のサージカルマスク、足でペダルを踏むと消毒液がでてくる「フットプッシャー」。加藤の会社は、寄せられたニーズをもとに、製品の部品や生産ラインを整えるために必要な部品の生産を、町工場に託していった。

 その年の春から1年ほど、町工場の人たちは部品作りに精を出した。リモートワークが叫ばれる中、現場に出ての作業。私たちを、そして医療現場を陰で支えてくれたのである。

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