ごとう・まさふみ/ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを担当。著書に『何度でもオールライトと歌え』『YOROZU~妄想の民俗史~』『凍った脳みそ』など(写真/本人提供)
ごとう・まさふみ/ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターを担当。著書に『何度でもオールライトと歌え』『YOROZU~妄想の民俗史~』『凍った脳みそ』など(写真/本人提供)

 人生を豊かにする読書。本好きは何を読み、どう感じているのか。AERA 2021年11月8日号では、ASIAN KUNG‐FU GENERATIONの後藤正文さんに、自身と本の関係、自分の中で「両極」に位置すると感じる本を含む、オススメの5冊を教えてもらった。

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 本は読むほうだと思います。常に複数の本を並行して読んでいるので、部屋にはCDやレコードよりも本が大量にあって大変なことになっています(笑)。

 ここまで本を読むようになったのは東日本大震災の後です。世の中を勉強しなきゃいけないっていう気持ちが、読書の幅を一気に広げてくれました。

 僕の考えでは、読むべき本は向こうから勝手にやってくるんです。なので、出合い方やタイミングを大事にして、人から何かをすすめられた時は素直に従うようにしています。ただ、自分の手元に来ても、開いてみたら全く読み進められない本もあるんですよね。文体が合わないのか、こちらの知識がついていけないのか。そういう本はテーブルの上に積んでおく。そして、忘れた頃にもう一度開いてみると「あれ? 今日はスッと入ってくるなあ」みたいな瞬間があって、外出用のバッグに入れて一気に読んでしまうこともあります。

文芸書から人文書まで、後藤さんの本棚にはジャンルも判型も様々な本がびっしりと並んでいる
文芸書から人文書まで、後藤さんの本棚にはジャンルも判型も様々な本がびっしりと並んでいる

 町田康さんはとくに好きな作家の一人。文章が精神の乾いた部分を走り抜けていく感じがするんです。人間の愚かしさを描いているにもかかわらず、読みながら「俺ってなんて愚かなんだ」と傷つくことがない。もっと俯瞰で捉えているから、登場人物の愚かさにいちいち傷つかないんですね。

 最近読んだ『東山道エンジェル紀行』も、ギリギリ笑い飛ばせないところが絶妙。寺門孝之さんの絵画もついているので、電子書籍ではなく実物の本として手に取る意味がある作品だと思います。

 反対に、川上未映子さんの小説『夏物語』は、登場人物たちの感覚がビビッドに自分の内側に入ってきて、精神のウェットな部分に足跡をつけられていく感じがしました。同じ時代を生きる一人の人間として、内側から射抜かれる作品です。

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