
遠藤:役を深めていく過程で僕自身も多くを学びました。日本兵はみな「玉砕」を教えられていたと学校などで学んできたけれど、小野田さんが入校した陸軍中野学校は、逆に「生き残れ」という精神をたたき込まれる機関だったと知って驚いた。
津田:だから彼は最初、ものすごくクールにビジネスライクに「兵士」をこなしていた。
遠藤:一方で父親には「お国のために玉砕せよ」と言われて送り出された。そうした家族との関係も、小野田さんがルバング島に残る道を選択したきっかけだったのかもしれませんね。
■だんだん狂っていく
津田:そんな彼がだんだん狂っていくわけです。「狂人」という意味ではなく、自分の判断がちょっとずつ狂っていく。特に最後の仲間が死んで一人になってから、自分に課された任務を忘れず、自分に命を賭した部下のことを忘れず、孤独に自然と闘い続けなければならない。その状況で、ジャングルのなかで人という生き物としての境界が曖昧(あいまい)になっていく。
遠藤:溶けていくような。
津田:そうそう。ト書きで一言「緑と同化している小野田」と書いてあるところがあって、一番印象的だった。彼はジャングルのなかに自分の心を見ていたのだ、と解釈して演じました。
遠藤:さすがですね……。
津田:いやいや。監督が俳優に求める精度の高さはすごかったでしょう。そこに嘘(うそ)があると絶対によしとしない。ただ一言「すまない」というシーンでもOKが出ず、何度も何度も撮り直した。大変だったけれど役者として幸せな瞬間でもあった。
銃でフィリピンの女性を殴るシーンで、手に取った瞬間は本物の銃なんだけど「殴る瞬間に、ここにあるゴムの銃と入れ替えて殴って」と言われたんです。「え? ワンカットで? 無理でしょ?!」って(笑)。そういう技もサッとこなさないといけない。マジシャン的なテクニックも要求される。
遠藤:監督に聞いたんですけど「泣く芝居」のときフランスの俳優は練りハッカを指につけておいて、一連の芝居のなかでその手を「ふっ」と目に持っていって涙を出すんですって。「フランスの俳優はそういう“手品”がうまいんだ」と。
津田:今回の現場では一切、許されなかったよね?(笑)