津田寛治(左 つだ・かんじ)、遠藤雄弥(えんどう・ゆうや)[photo/門間新弥、hair & make up/黒木 翔、styling/三原千春(津田さん)]
津田寛治(左 つだ・かんじ)、遠藤雄弥(えんどう・ゆうや)[photo/門間新弥、hair & make up/黒木 翔、styling/三原千春(津田さん)]

 終戦後も約30年にわたり孤独な戦いを続けた小野田寛郎。フランス人監督の映画「ONODA 一万夜を越えて」に出演した二人は、何を感じたのか。AERA 2021年10月25日号で、俳優の遠藤雄弥さんと津田寛治さんにインタビューした。

【写真】映画「ONODA 一万夜を越えて」の場面カットはこちら

*  *  *

――主人公の小野田寛郎は1922年生まれ。陸軍中野学校で秘密任務を与えられ、44年にフィリピン・ルバング島へ赴任する。74年に日本人旅行者の青年と出会うまで、約30年間、ジャングルに潜伏し続けていた。

 この衝撃の実話を映画化したのは、フランスの新鋭、アルチュール・アラリ監督(40)。小野田の青年期を遠藤雄弥さん(34)、成年期を津田寛治さん(56)がそれぞれ演じた。

津田:僕は65年生まれですが、そこまでタイムリーに小野田さんを知らず、テレビでドラマ化されたのを知っていたくらい。そんな人物をフランス人監督が描く、しかもオール日本人キャストで、と聞いて驚きました。それにまさか自分がオーディションに受かるなんて!(笑)

遠藤:僕もです(笑)。僕は小野田さんの史実をまったく知らなかった。戦後、約30年間も戦い続けていた人がいるなんて!とびっくりしました。

――撮影は2018年12月から4カ月間、カンボジアで行われた。役を体現すべく津田さんは体重を13キロ、遠藤さんは11キロ減量して挑んだが──。

津田:僕らは撮影前、日本で自衛隊出身の方から、当時の日本軍の敬礼の仕方や銃のかまえ方の訓練を受けたんです。小野田さんは帰国されたときの立ち姿が美しい方だったので、彼らから「敬礼だけはちゃんとしてくれ」と言われて現場に行った。でも撮影に入ったら監督はことごとく「そうじゃない」と。

死と向き合い30年にわたり孤独と闘った男の心境を丁寧に描き出した。TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中(c)bathysphere - To Be Continued‐Ascent film‐Chipangu‐ Frakas Productions‐Pandora Film Produktion‐Arte France Cinema
死と向き合い30年にわたり孤独と闘った男の心境を丁寧に描き出した。TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中(c)bathysphere - To Be Continued‐Ascent film‐Chipangu‐ Frakas Productions‐Pandora Film Produktion‐Arte France Cinema

■状況と心情を表現する

遠藤:そう!

津田:「この状況でそんなにピシッとした敬礼はできない」「いま仲間が目の前で殺されかけている時に、そんなに手際よく銃は撃てないよね」「この映画はアクションものじゃない。現実にはもっと必死で、手が震えて、弾の装填(そうてん)もうまくいかないくらいだろう」と。監督はいわゆる“日本兵”を描くのではなく、ジャングルで30年間潜伏した一人の“人間”を描こうという思いが強いのだ、とわかった。

遠藤:日本やハリウッドにも素晴らしい戦争映画はたくさんある。でも監督が描きたいものは史実に忠実な「小野田寛郎」だけでなく「人としてのあり方」なのかなと感じました。引き金の引き方、敬礼のしかた、すべてにそのときの状況と心情を反映させて表現してほしいと。

津田:新しい切り口だよね。

次のページ