京都市が定めた「乾杯条例」は全国的なブームに。何で乾杯するかは個人の自由との批判から、制定を求める陳情を否決した議会もある(c)朝日新聞社
京都市が定めた「乾杯条例」は全国的なブームに。何で乾杯するかは個人の自由との批判から、制定を求める陳情を否決した議会もある(c)朝日新聞社

「業界団体からの陳情を受けて制定されたケースが多いようです。財政的な負担も少なく地域をPRできることから、『ゆるキャラ』に似たブームの構図がありました。ただし、PR以上の効果があったかというと、疑問です」(木寺教授)

 ほかにも、「一日に一度は人を褒めたり感謝を伝えたりすること」で明るい町づくりを目指す「一日ひと褒め条例」(兵庫県多可町/19年1月施行)や、各地で制定された朝食に地場産米を食べる「朝ごはん条例」も話題になった。

■議員の実績づくり

 一方、最近は冒頭の「エスカレーター条例」のような、罰則はないものの、行動規範や義務を定めた条例が注目を集めることが多い。

 香川県は20年、18歳未満を対象にインターネットとコンピューターゲームの利用時間を制限する「ネット・ゲーム依存症対策条例」を定め、全国で議論を呼んだ。また、神奈川県大和市は同年、スマホの画面を注視しながら歩行する「歩きスマホ」を禁止する条例を全国で初めて制定した。「歩きスマホ」「ながらスマホ」を防止する条例はその後の1年間で、東京都足立区、東京都荒川区、大阪府池田市でも相次いで成立した。

 こうした条例の制定が相次ぐ背景には、何があるのか。木寺教授は「社会情勢の変化を受けたものだが、議員の実績づくりの側面もある」と指摘する。

「罰則なしの条例は具体的なコストがあまりかからず、制定が比較的容易です。議員提案でつくられるケースが多く、地域課題に対する『実績づくり』に利用されやすい側面があります」

 議員にとって、自らが提案した条例を成立させることはわかりやすい「実績」のひとつだ。一方、法令との整合性を検証したり、実行可能な条文案を練ったりするハードルは高い。特に罰則付きで権利を制限する条例の場合、住民の反発を呼ぶ可能性があるし、地方検察庁などとの協議も欠かせない。また、給付金を支給したり、行政サービスを拡充させたりする条例も財政的な裏付けが必要だ。

次のページ