日本エレベーター協会によると、2018~19年に起きたエスカレーター上の事故は1550件。半数以上は乗り方不良が原因だった(c)朝日新聞社
日本エレベーター協会によると、2018~19年に起きたエスカレーター上の事故は1550件。半数以上は乗り方不良が原因だった(c)朝日新聞社

 エスカレーターを歩いたり、歩きスマホをしたりすることを禁止するなどの独自の条例が、話題を呼んでいる。罰則はないので効果を疑問視する声もあるが、その理由は。AERA 2021年10月11日号の記事を紹介する。

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 エスカレーターを利用する者は、立ち止まった状態で利用しなければならない──。

 埼玉県で10月1日、「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行された。罰則はないが、利用者にはエスカレーターに乗るときに歩かないこと、事業者にはそれを周知することを義務付ける内容だ。

 エスカレーターの安全利用について義務を定めた条例は全国でも初めてとみられる。多発するエスカレーター歩行中の事故を防ぐことが目的だ。9月27日にJR浦和駅で条例の周知を呼びかけた大野元裕知事は、報道陣の取材に対し、「(すぐに習慣を変えることは)難しいだろうが、『埼玉スタンダード』として広げたい」と話した。

■理念や独自性を示す

 地方公共団体が国の法律とは別に独自に定める条例には、情報公開条例や個人情報保護条例のように、ほぼすべての自治体が類似の内容を制定しているケースもある。だが、各自治体の理念や独自性が色濃く表れているものも少なくない。

 地方自治や条例について詳しい明治大学政治経済学部の木寺元(はじめ)教授(政治学)はこう話す。

「条例の原則は国の法律で十分にカバーできない分野について、住民を守ったり自治体を運営したりするために定めるものです。罰則付きで権利を制限したり、義務を課したりするものも多くあります。一方、罰則を設けずに自治体独自の理念を表したり、自治体をアピールしたりするようなユニークな条例も各地で定められています」

 例えば京都市は、2013年に「清酒の普及の促進に関する条例(清酒乾杯条例)」を定めた。伝統産業である清酒で乾杯する習慣を広めるねらいだ。同様の条例は各地でブームとなり、アエラ編集部で確認できただけで20を超える自治体が、類似の「乾杯条例」を制定している。いずれも日本酒やワイン、リキュール、焼酎など地場産品の消費拡大を目指すものだ。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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