倒壊した世界貿易センター跡の池の縁には、犠牲者の名前が彫られている。遺族が供えた花は9・11前後でよく見られる(撮影/津山恵子)
倒壊した世界貿易センター跡の池の縁には、犠牲者の名前が彫られている。遺族が供えた花は9・11前後でよく見られる(撮影/津山恵子)
家族とともに跡地に来たメラニーさん。9・11は世界中が理解すべき問題だと語った(撮影/津山恵子)
家族とともに跡地に来たメラニーさん。9・11は世界中が理解すべき問題だと語った(撮影/津山恵子)

 米同時多発テロから9月11日で20年。テロ攻撃の問題に対する「風化」が懸念される中、教育現場でどう9.11を教えていったらいいのか。教師らの苦闘が続く。AERA 2021年9月20日号の記事を紹介する。

【写真】家族とともに跡地に来たメラニーさん

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 透き通る秋の空気、高い青空──。「9.11」当日と同じような天候の9月7日、倒壊した世界貿易センター跡地の公園で、ニューヨーク市内の高校生メラニー・クリオロ-ランディさん(17)に出会った。9.11の後に生まれた世代だ。

「幼稚園から今の高校まで、毎年9.11についての授業がありました。幼稚園で初めてビデオを見たときは何が何だかわからなかったけど、中学生になってから、これは大事なことなんだと思い始めたんです」

 小学校では、9月になると9.11の時系列やその後に起きたアフガニスタン戦争とイラク戦争について学んだ。9.11当日は黙祷もした。しかし、メラニーさんが重大な事件だったと真に理解したのは、中学生になってからだ。

「9.11は、すごい影響力があった事件だと思います。米国だけではなく中東など世界中で、一般市民がその影響を受けた。政治家がその後の世界を仕切ったけれども、今でも打撃を受けているのは、中東の人であり私たちのような一般市民です」(メラニーさん)

「それは私たち、新しい世代にも打撃を与えています。アフガニスタンや中東からは日々、悲惨な映像が送られてきます。それを止めるために9.11について学ばなくてはなりません」(同)

 しかし、メラニーさんは、9.11教育に関しては恵まれているほうだ。

■9.11の授業は大変

 文部科学省が定めた学習指導要領が全土で適用されている日本と異なり、米国では授業の裁量がかなり教師に任されている。州政府が定める「基準(スタンダード)」の範囲内で授業をデザインすることができ、政府の基準はない。一般的に9.11についての授業は、ほとんど実現しないままというのが現状だ。

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