アフガン戦争での最後の米軍戦死者となった11人の海兵隊員、1人の海軍衛生兵、1人の陸軍兵士を追悼するため海兵隊モニュメントに多くの人が集まった/8月28日、米国ワシントン(写真:米海兵隊提供)
アフガン戦争での最後の米軍戦死者となった11人の海兵隊員、1人の海軍衛生兵、1人の陸軍兵士を追悼するため海兵隊モニュメントに多くの人が集まった/8月28日、米国ワシントン(写真:米海兵隊提供)
AERA 2021年9月13日号より
AERA 2021年9月13日号より

 バイデン米大統領は「米国史上最長の戦争を終わらせた」と自賛するが、現役・退役軍人らからは批判が続く。軍首脳部に辞職を求める動きも出ている。AERA 2021年9月13日号で取り上げた。

【図】米国とタリバンをめぐる主な動き

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 米軍部隊が7月にアフガニスタンから撤収を始めると瞬く間にタリバンの勢力が回復し始め、8月中旬には首都カブールも制圧するに至った。米国は急きょカブールから総撤収を開始したが、撤収と言うよりは逃亡に近い醜態を国際社会にさらすに至った。

 すなわちバイデン政権そして米軍首脳部は「撤収」という言葉を用いて、アフガニスタン戦争を終結させたというニュアンスを強調している。だが、実のところは20年間戦ってきたアフガンで手痛い敗北を喫した米軍が逃亡したというのが実情に近い。

 常日頃「勝利を収めなかった戦争は、どのように言いつくろっても『敗北』である」と口にしている筆者周辺の米軍関係者たちも、「アフガンでも、再び米国は敗退してしまった」と嘆いている。

『孫子』における「戦争は国家の大事」や、クラウゼヴィッツ『戦争論』での「戦争は国際政治の延長」という名言が意味しているように、戦争での勝利とは、個々の戦闘に打ち勝つことではない。

 そうではなく、現代では戦争の目的は、国際社会における国益伸長や国益維持に立脚した政治的目的ということになる。それらを達成したことが戦争における勝利なのだ。

■米軍首脳の失策だった

 アフガンを民主国家、少なくとも形式的にだけでも変貌させて、米国が主導してきたいわゆる西側民主国家陣営に引き入れようという政治的目的は、完全に達成されなかったのだ。

「今後10年以上は、アメリカ軍は国際社会に恥をさらしていくことになる」

 アフガンからの幕引きの姿があまりにも無様であったため、米軍関係者たちはバイデン政権ならびに米軍首脳陣に対してこう言って怒りを露(あら)わにしている。

 たとえば、首都カブールの民用空港から多数の民間人の撤収を完了させるはるか以前に、アフガンにおける米軍最大の拠点であった航空基地を閉鎖し、空輸能力を放棄してしまうような命令を発したことなどは軍事常識では考えられない米政府軍首脳の失策であった。

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