また、やはり現地の部隊に「極めて迅速に撤収せよ」との命令を発したために、2千両ほどの軍用装甲車両を含む8万両近くの各種車両、4機の軍用輸送機、100機ほどの各種ヘリコプター、60万丁以上の自動小銃や機関銃、2千万発以上の小銃弾、900万発ほどの機関銃弾など、アフガン軍に供給していた大量の武器弾薬を、米軍自身の手で処理することができなかったと見られている。これらの多くはタリバン側に掌握されてしまったのである。
要するに、アフガンでの米軍「撤収」に伴う混乱状況は、軍隊による計画的な撤収などと呼べる状況からはほど遠い「逃亡」に近い実態が引き起こしてしまったものである──。多くの米軍関係者がこう指摘し、米軍最高指揮官であるバイデン大統領と国防長官のオースティン退役陸軍大将、ならびに現役軍人の最高位で直接大統領に軍事的助言を与える統合参謀本部議長ミリー陸軍大将たち米軍最高首脳陣への批判を強めている。
■軍法で批判を抑える
退役そして現役の将官や将校の間からは、大統領や国防長官、それに統合参謀本部議長に対するかなり攻撃的な言動が発せられ始めた。これを受け、米軍首脳部は次のように批判の封じ込めを図るのだった。
「軍法には軍内部の上部指揮命令系統だけでなく、大統領、副大統領、国防長官を含む閣僚、連邦議会、州知事や州議会などに対して侮辱的言動をしてはならないとある」
こうした動きに対抗すべく、100人近くの海軍、陸軍、空軍、そして海兵隊の退役将官たちが連名で「アフガニスタン情勢に関する公開状」を発表。すなわち、オースティン国防長官と統合参謀本部議長は、米軍の逃亡劇の責任を取って辞職すべきである、という意見表明である。(軍事社会学者・北村淳(米国在住))
※AERA 2021年9月13日号より抜粋