「つらい気持ちを親にわかってもらえない」「無理やり学校に行けと言われる」──。泣きながら電話をかけてきて、1時間近く話をする子もいるという。

 同法人代表理事の小林純子さんは、コロナ禍で子どもたちの行きづまりを感じると語る。

「コロナの長期化で大人もストレスをためそれを子どもにぶつけているように感じます。一方、子どもはストレスを吐き出す場所が少なくなっています」

 コロナ禍の今、子どもたちはどのような心理状態にあるのか。

「これまでと違う日常の中で行動も制限され、孤立や孤独を感じている子どもは少なくないと思います。とくにコロナ禍で貧困や虐待の深刻度が増し、家庭環境が脆弱な子どもほど、厳しい状況に置かれています」

 と話すのは、臨床心理士で子どもの自殺予防教育に取り組んでいる「日本自殺予防学会」理事の阪中順子さんだ。

 阪中さんによれば、子どもの自殺の原因は、学業不振や進路問題、友人との不和やいじめ、家庭問題、未治療の心の病など様々な要因が複雑に絡んでいる。こうした要因がコロナ禍で一層深刻化し、「ハイリスクな子」が増え自殺につながっている可能性があるという。

■正論は心に届かない

 子どもの自殺には何か前触れがあるといわれる。阪中さんによると、具体的には、

・「死にたい」とほのめかす
・自傷行為をする
・身体の不調を繰り返し訴える
・成績が急に落ちる
・妙にはしゃぐ

「大人から見たら些細に思えるようなことでも、子どもにとっては重大な場合があります。大人の思い込みで判断しないで、わずかな変化も見逃さないようにしてほしい」(阪中さん)

 子どもからSOSをキャッチした際、対応策として推奨されるのが「TALKの原則」だ。これは(1)Tell(言葉で伝える)、(2)Ask(尋ねる)、(3)Listen(聴く)、(4)Keep safe(安全確保)──この頭文字をつないだもの。

 例えば、子どもが身体の不調を訴えたら「何かあったの?」と声をかける。「死にたい」とほのめかしたら、「そう思っているんだ」と受け止め、つらい気持ちをわかろうと耳を傾ける。この時、「死んではいけない」「命を粗末にしてはいけない」などと正論を言っても子どもの心に届かない。子どもは気持ちを吐き出せなくなる。

次のページ