車内アナウンス一つをとっても、日本語を英語に直訳すると違和感がある(写真/gettyimages)
車内アナウンス一つをとっても、日本語を英語に直訳すると違和感がある(写真/gettyimages)

 新幹線の車中、おや、と耳を疑うようなアナウンスが流れてきました。

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 時節柄、長距離移動はまだ避けたいもの。ただこのときは、やむを得ない事情があり新幹線に乗っていました。約5年間暮らしたアメリカから日本に本帰国し、実家の長野で2週間の隔離生活を送ったあと、引っ越し先の東京へ向かっていたのです。アメリカから帰ったばかりだったからこそ、このアナウンスが奇妙に聞こえたのかもしれません。

“Please keep a face mask on and refrain from talking.”

 日本語にすればなんのことはない、「マスク着用のうえ、会話はお控えください」という、今では耳にしない日はないくらい当たり前の注意喚起です。しかし、アメリカでこう言ったらムッとする人もいるんではないかと感じました。

 というのも‘Please’で始まる要求には、決定事項を一方的に通達するようなニュアンスが漂うことがあるからです。もちろん文脈や言い方によりますよ。よるんですが、「あなたがた、もちろんマスク付けますよね。会話も控えますよね。じゃ、よろしくお願いしますよっ」と有無を言わさず要求している感じ。いや、マスクはいいんです。アメリカでもマスク着用は各州で義務化されていましたから、決定事項として要求されても違和感はありません。でも‘Please refrain from talking.’といわれたら……? 言論の自由や他者との対話を何よりも愛するアメリカ人、面白くない人もいるかもなと感じたのです。

 アメリカで同じことを要求するとしたら、たとえばこんなふうになる気がします。

“Conversing on the train may cause the spread of virus.(車内での会話はウイルス感染を起こす可能性があります)”

 または、

“We appreciate you refraining from conversation.(会話をお控えいただき感謝します)”

 など。会話を控えてと直接的に要求するのではなく、事実や結果だけ述べて会話を控えるかどうかはあくまで本人に決めさせるスタイル。アメリカ人って、人に決められるのはキライ、何もかも自分で決めたいというところがありますから。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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