岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年から現職(撮影/楠本涼)
岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科教授。島根医科大学(現・島根大学)卒業。ニューヨーク、北京で医療勤務後、2004年帰国。08年から現職(撮影/楠本涼)

 開催中の東京五輪では、選手や関係者らにも感染が起きている。五輪の感染対策に問題はなかったのか。神戸大学の岩田健太郎教授(感染治療学)が、「言語道断」と指摘する問題がある。

【図】五輪の経費は3兆円を超す?

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――五輪では、8月6日時点で選手や関係者ら計382人が感染し、選手村でクラスターも発生した。この人数は、国際オリンピック委員会(IOC)の資格認定証(アクレディテーション)を持つ人だけで、警備のために都外から応援に来ている地方自治体の警備隊員ら、広い意味での関係者の感染者数はもっと多い。

 五輪の感染対策があまりうまくいかなかったということです。

 IOCは、選手や関係者には毎日3万件ほどの新型コロナウイルス検査を実施しており、陽性率は0.02%と低いので、感染対策は万全だと主張しているようですが、これは誤解に基づいた考え方です。検査数が多くなる、つまり分母が大きくなればなるほど、陽性率は低くなります。陽性率ではなく、約400人が感染した、という実数が問題です。

 五輪ほどの巨大スポーツイベントだから400人程度なら問題ない、という考え方も間違っています。そんな考え方では、そもそも、このような感染状況の中で、なぜこんな巨大イベントを開くのかが説明できません。

■規模と影響が違う

 また、プロ野球やJリーグは観客を入れて試合をしているのだから、オリンピックだって有観客でいいではないかと言った自治体の首長がいましたが、それも誤解です。一つの会場だけで考えればその論理は成り立つかもしれませんが、オリンピックは、何十もの会場で同時に競技をしているのです。規模が違い、感染状況への影響が違います。

 これだけ巨大なスポーツ大会を強行する以上、慎重に、徹底的な感染対策をして開くべきでした。しかし、感染者数をみると、決して感染対策は十分ではなかった可能性が高いです。

――男子サッカーで日本が1次リーグ初戦で対戦した南アフリカのチームでは、来日直後に選手2人と関係者1人の感染が判明。21人が濃厚接触者となった。国内の規則では濃厚接触者は感染を広げないために14日間、外出せず、他の人と接触しない「隔離」が求められる。しかし、IOCと大会組織委員会は急きょ、試合6時間前のPCR検査で陰性なら試合に出場できるというルールを作った。

 言語道断の対応です。問題は3点あります。

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何が「言語道断の対応」だったのか