■10万体のミニチュア所有 大きさの対比が成功の鍵

 後日、田中のインスタグラムにアップされた作品のタイトルは「スリルを味わう」。7万近い「いいね」とともに、「めん食らいました」「Jack and the giant pasta stalk(ジャックと巨大なパスタの木だ!)」「Que no llegue el viento(風に流されないで……)」「想吃(食べたい)」など世界中からコメントが寄せられた。

 こうした見立てによる一連のアートを、田中は「MINIATURE CALENDAR(ミニチュア カレンダー)」と名付け、日めくりカレンダーのように毎日1作品ずつインターネット上で発表している。2011年から作り始めた作品数は4千近くに及び、国内外で幅広い年代のファンを獲得。21年7月時点で、インスタグラムのフォロワーは292万人を超えるが、その7割は海外のユーザーだ。17年には、台湾の代表的な文化施設でもある中正紀念堂を始め、国内外の主要都市で展覧会を開催。同年、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のオープニング映像を手がけたことでも話題となった。

 作品の制作と撮影は、自宅マンションの一室に構えたアトリエで1人で行う。アトリエのほかに2部屋を保管庫として借りており、所有するミニチュアの数は「優に10万体を超える」という。

「見立てを成立させるには、物の大きさの対比が重要なんです。例えば、分度器を別の物に見立てるとき、組み合わせる人形のサイズが数センチなら『クジャクの羽』、もっと小さければ『カジノのゲームテーブル』、さらに小さいと『橋』に見えてくる。たった1~2センチの違いで、見立てが成立しないこともあります。だからこれだけ人形があっても足りなくて、アシスタントに見立て用の人形を作ってもらうこともありますね」

 独自の見立ての視点は、少年時代の遊びにも無意識に採り入れられていたようだ。

 田中の生まれは本市。九州第3位の人口を誇る政令指定都市である一方、東には阿蘇山、西には有明海が広がる自然豊かな場所でもある。幼少期の遊び相手は、専ら双子の兄。田中の母(65)は、「小さいときは、よく2人でブロック遊びをしていましたね」と当時を振り返る。

「2人ともレゴが好きで、家やビルなんかを組み立てて遊んでいましたよ。特に達也は、物を作ったり絵を描いたりするのが昔から得意で、よく賞状をもらってきましたね。小学生のときは、近所の友だちと一緒に、木の上に段ボールで秘密基地を作ったこともありました」

 双子の兄の祐也(39)は、「今にして思えば、ブロック遊びも一種の見立てだった」と話す。

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