■『墨子』をお読みなさい

半藤:主人が亡くなる直前のことですが、突然「起きてる?」と声をかけられたのです。病状が悪化したのかと思って「どうしたの?」と聞いたら、「2500年前の思想家に墨子という人がいてね、あの時代にずっと戦争に反対し続けた人なんだ。すごい人だから、墨子をお読みなさい」って。それでまたスヤスヤと寝ちゃった。それが最期の言葉でした。

姜:私は中国の古代思想には疎くほとんど何も言えないのですが、墨子が儒家と比べて平和を愛し、博愛を説く古代中国の思想という印象を持っています。その分、理想主義的であったがゆえに戦国時代の血生臭いリアリズムが支配した時代にはどこか無力だった。それにもかかわらず、連綿とその教えは受け継がれてきましたね。

半藤:実は忙しくて『墨子』に手をつけていないんです。けれど必ず読まなければ。それが彼の遺言だと思っていますから。

(構成/編集部・三島恵美子)

AERA 2021年6月14日号より抜粋