5月25日のデモで舞台に立ち、「BLMは人生を変えた」と話すチ・オセ氏(右端)。BLMをきっかけに今年、NY市議会議員に立候補した(撮影/津山恵子)
5月25日のデモで舞台に立ち、「BLMは人生を変えた」と話すチ・オセ氏(右端)。BLMをきっかけに今年、NY市議会議員に立候補した(撮影/津山恵子)
キャロリン・ショーンさんは「アジア系ヘイトをやめて」という手書きのサインを持ってデモに参加した(撮影/津山恵子)
キャロリン・ショーンさんは「アジア系ヘイトをやめて」という手書きのサインを持ってデモに参加した(撮影/津山恵子)

 黒人男性が警察官により殺害された事件をきっかけに、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が全米に広がって1年が経つ。一時は暴動にまで発展し、全米を緊張させた運動で、何が変わったのか。AERA 2021年6月14日号から。

【写真】「アジア系ヘイトをやめて」という手書きのサインを持ってデモに参加した人も

*  *  *

 2020年5月25日、中西部ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイド氏(当時46)が、白人の元警官デレク・チョービン被告(45)に首を圧迫され、息絶えた。

 その一部始終を撮影したビデオがソーシャルメディアで野火のように広がり、ロックダウンでゴーストタウンとなった街中に、突然数百~千人を超える若い人たちが「Black Lives Matter(ブラックライブズマター)!」(黒人の命は大切だ)と叫びながら繰り出した。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、デモが広がってから、1年が経つ。

 その規模と広がりは、少なからぬ人々を驚かせた。参加者の中心は、過去に一度もデモに参加したことがないミレニアルやZ世代だったからだ。

 新型コロナウイルス感染拡大の最中、彼らをデモに駆り立てたBLMは、その後、どんな展開を見せたのか。

 今年4月20日、チョービン被告のフロイド氏に対する殺人罪を問うた裁判で、陪審員は有罪評決を言い渡した。ニューヨークの観光名所タイムズスクエアにいた黒人人権の運動家アナイア・Aさんは、涙ぐみながら、カメラの前で拳を振り上げた。

「こんなビッグな評決は今までなかった。白人警官が有罪となった今、白人至上主義にメスが入り、今までにはなかったチェンジが起きる」

■2千分の1の評決

 まさかの稀な評決に、全米がテレビに釘付けになった。「黒人市民を殺害したとして、勤務中の白人警官が有罪となるのは、ミネソタ州で初めて」(ミネアポリス・スター・トリビューン紙)。また、問題となっている警官による銃撃事件についても、「殺人として有罪となったのは05年から全米でわずか7件、つまり、警官が市民を殺した2千件のケースのうち1件が有罪になる確率」(ニューヨーク・タイムズ)という。

 今後言い渡される量刑として、検察側はチョービン被告に「禁錮30年」を求刑した。前科がなければ、今回の推定量刑は10~15年程度だが、「警官の地位を悪用した」「犯行が残忍」「子どもが目撃する前での犯行だった」などの理由で、加算された。

次のページ