実は、容疑者が白人だった場合に比べ、黒人が警察官に殺されるケースは未だに多い。ワシントン・ポストによると、警官によって銃で殺害される100万人当たりの人数は、黒人が36人に対し、白人は半分以下の15人だ。

 これまで警官を有罪にするのが極めて困難だったことを考えると、チョービン被告裁判は大きな風穴をあけたといえる。

■暴動ではなく虐殺

 今年5月25日、フロイド氏一周忌の集会がニューヨーク市内で開かれた。1年前であれば、BLMのデモは1千人を超える規模だったが、同日は200人ほどだった。しかし、昨年と同じく参加者の年齢層が若く、女性が圧倒的に多い。

 この層は、昨年の米大統領選投開票日の4日後の11月7日、元副大統領のジョー・バイデン民主党候補(当時)が大統領のドナルド・トランプ共和党候補(同)に勝利したと主要メディアが一斉に報じた直後に公園などに集まってきた人々と重なる。大統領選の出口調査によると、バイデン候補を勝たせたのは、18~29歳の世代と黒人を始めとした非白人の有権者層。つまり、来る日も来る日も街に繰り出していたBLMデモの参加者が中心だった。

 そのバイデン大統領は、5月31日、「構造的な人種差別を根絶する」とホワイトハウスで表明した。南部オクラホマ州タルサで100年前の同日、「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれた黒人居住区を白人暴徒が襲撃し、火をつけたために50~300人が死亡、街は壊滅した。同大統領は、黒人から就職や富を築く機会を奪うことに国家と政府が果たした役割を「重く受け止め、認めなければならない」とまで言及した。

 翌6月1日にはタルサを訪れ、事件の生存者に会った。歴史から抹殺され、死亡者の数さえ定かではない同事件の追悼のためにタルサを訪れた大統領は、バイデン氏が初となる。

「米国の同胞の皆さん、これは暴動ではなかった。これは虐殺だった」とバイデン氏は認めた。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2021年6月14日号より抜粋