パレスチナ自治区ガザの境界から8キロの距離にあるイスラエル南部アシュケロンでは5月16日、ガザからのロケット弾で車両が破壊された(写真:gettyimages)
パレスチナ自治区ガザの境界から8キロの距離にあるイスラエル南部アシュケロンでは5月16日、ガザからのロケット弾で車両が破壊された(写真:gettyimages)
AERA 2021年6月7日号より
AERA 2021年6月7日号より

 武力衝突が続いていたイスラエル軍とパレスチナ武装勢力が5月21日、停戦に入った。ガザ空爆で非難を浴びたイスラエルにいる筆者が、心を痛める市民の気持ちを報告する。AERA 2021年6月7日号の記事を紹介する。

【パレスチナ自治区のマップはこちら】

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 ウゥー、ウゥー。サイレンが響き渡る中、迎撃ミサイルが空中で爆発し、振動で家が揺れる。発令から爆弾が到達するまで90秒。イスラエルの田舎町に住む筆者の自宅にシェルターはない。居間のテーブルの下にじっとうずくまる。迎撃率は9割。運を天にまかせるしかない。

 でも、日本にいる母親にはLINE(ライン)でこう伝えた。

「まず落ちてこないから大丈夫だよ」

 そんな緊張の日々が5月21日、やっと終わった。武力衝突を続けてきたイスラエル軍とパレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織ハマスなどの武装勢力が停戦に入った。

■恐怖を乗り越えて活動

 今回の衝突は、イスラエル占領下の東エルサレムをめぐるパレスチナ側の反発がきっかけだった。イスラエル軍によると、ハマスが実効支配するガザ地区から4千発以上のロケット弾が発射され、イスラエル国内で13人が死亡。イスラエル軍は空爆で報復し、テロリスト200人超を殺害したと発表した。国連は242人が死亡し、今のところ少なくとも129人は民間人だと発表した。武装勢力の誤爆でも複数死亡したようだとしている。

 筆者は仕事のためイスラエルに来た。現地の歴史や政治とは関係ない国際プロジェクトだ。だが、建国でアラブ人(パレスチナ人)を追い出したユダヤ系イスラエル人に良心の呵責(かしゃく)はないのか疑問だった。筆者はかねて、土地を奪われた、米国や日本の先住民族についても関心を寄せてきた。

 同僚のシャロン(49)に聞いた。高校生の息子を育てるシングルマザーだ。

 強硬派ユダヤ人のパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区への入植。イスラエル側の差別を目の当たりにしている。「ユダヤ系イスラエル人」というレッテルから罪悪感を持ち、ただ「シャロン」個人として生きられない苦しさと闘ってきたという。

「どこかに行けるなら。でも、私たちはどこへ行けば?」

 誠実であろうとする人ほど苦しむ複雑さがつらかった。

 西岸地区との検問所でパレスチナの病気の子どもを預かり、病院に運ぶボランティアもしている。検問所付近はいつ衝突が起きてもおかしくない。

「狙われる恐怖はゼロじゃない。その恐怖を乗り越えて、続ける」

(敬称略)(ライター・秋葉玲央)

AERA 2021年6月7日号より抜粋