米ニューヨーク市内に設営されている海外旅行客向けの新型コロナウイルスのワクチン接種会場。中南米から訪れる人が目立つ(写真:土橋省吾さん提供)
米ニューヨーク市内に設営されている海外旅行客向けの新型コロナウイルスのワクチン接種会場。中南米から訪れる人が目立つ(写真:土橋省吾さん提供)
日本人向けのワクチン接種ツアーを募集する「あっとニューヨーク」のホームページ。40~50代の会社経営者らの応募が相次いでいる(写真:土橋省吾さん提供)
日本人向けのワクチン接種ツアーを募集する「あっとニューヨーク」のホームページ。40~50代の会社経営者らの応募が相次いでいる(写真:土橋省吾さん提供)

 いつになれば順番が回ってくるのか──。新型コロナウイルスのワクチン接種が進まない現状を尻目に、海外で接種をする人たちが出てきた。AERA 2021年6月7日号から。

【写真】日本人向けのワクチン接種ツアーを募集する「あっとニューヨーク」のホームページ

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「世界の中心ニューヨークでワクチンを接種するニッポン支援プロジェクト」

 ホームページ(HP)にこんなメッセージを掲げ、日本人向けのワクチン接種ツアーを募集するのは、米ニューヨーク(NY)が拠点の旅行会社「あっとニューヨーク」だ。代表の土橋省吾さん(50)は経緯をこう語る。

「以前、NYをご案内した日本在住の顧客から、NY市が観光客向けのワクチン接種を始めるようなので調べてほしいと、5月11日に依頼を受けたのがきっかけです」

 土橋さんが市観光局に問い合わせたところ、5月13日以降は米国人旅行客だけでなく、海外からの旅行客も対象になることがわかった。土橋さんはその日のうちにHPを更新し、日本人向けのワクチン接種ツアーを募った。

「もちろんビジネスの面から需要が見込めると判断したのですが、支援にもなると考えました。80歳を超える私の親や親族の医師ですら、日本では未接種です。日本の接種ペースが上がらないのであれば、NYに来られる人は来て、打ってもらえればいいんじゃないかと」

 NY市は海外旅行客向けの接種会場を地下鉄の駅構内などに設営した。そこでは、米製薬大手のファイザー製やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製のワクチンが予約なしで無料接種できる。

■経営者や芸能人も関心

 土橋さんに依頼した50代の男性と妻は、15日にNY入り。その日のうちにワクチン接種を済ませた。男性はその直後に現地でテレビ朝日の取材を受け、16日(日本時間)のニュースで放映された。

「これをきっかけに申し込みが殺到しました」(土橋さん)

 16~18日の3日間で150人を超える申し込みや問い合わせが舞い込んだ。ほとんどが企業経営者で、有名芸能人からの問い合わせもあった。希望者は働き盛りの40~50代が中心。40代以下の社員が多い都内のIT企業からは、全員を順番にNYに送りワクチン接種をさせたい、との相談もあった。

「東証一部上場企業の社長からは電話で『すぐにワクチンを打ちたい』と連絡が入り、その場で日程を決めました。ネットで調べると、すぐにお名前が出てくるような方です」(同)

 気になる料金は1人当たり約900ドル(約10万円)。空港の送迎や接種会場への案内、日本への再入国に必要なPCR検査と陰性証明書の手配などを含む。日本からの航空券やホテルは各自で確保してもらう。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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