「ユニホームやIDカードのアクレディテーションには、とても強い力があります。テロ対策のため、過去の五輪でも本人以外の受け取りや郵送は認められていません。問題は、ボランティアにこうした事情をしっかり伝えられていないことです」

■ボランティアにヘイト

 アルバイトの募集にも、同じことがいえるという。海外では、有償スタッフの募集時は役割や責任範囲、報酬をしっかりと明記する。一方の日本では「みんなで一緒にがんばりましょう」のようなメッセージを打ち出し、ボランティアとの線引きがあいまいに見える傾向があるという。西川さんは言う。

「IOC(国際オリンピック委員会)やJOC(日本オリンピック委員会)への国民の批判がボランティア個人へのヘイトクライムになっている実情もあります。組織委は透明性のあるメッセージを打ち出してほしい」
 不透明な五輪運営は、ボランティアだけではないようだ。記者の手元に、1枚の委託契約書と内訳書の写しがある。

 舞台は、五輪の42会場の一つ、武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)。会場の準備・運営委託業務を受託したのは、都内の広告会社だ。契約期間は2019年12月18日~20年9月30日。金額は消費税込みで6億2304万円との記載があり、組織委の武藤敏郎事務総長の名前で契約が結ばれている。

■かなり高い「人件費」

 内訳書には、業務を担うディレクターや運営統括、マネージャーなど11の職務とそれぞれの「単価」と「人数」「数量」が記されている。

 中でも目を引くのは、「本大会に向けての準備業務」が割り当てられているディレクター職だ。1人あたりの単価は1日35万円。人数は2人で、40日で合計2800万円が計上される。

 大会期間中の会場運営業務を担うサービススタッフの単価は1日2万7千円と最も安いが、373人が15日分、339人が13日分と合計2億7005万4千円が“人件費”となる。

「管理費と諸経費を合わせて20%で契約しているため、組織委員会から(ディレクター職)1人あたりに42万円が支払われていることになります。さすがに高すぎませんか」

 5月26日の衆院文部科学委員会でそう質問したのは、立憲民主党の斉木武志議員(47)だ。参考人として出席した組織委の布村幸彦副事務総長は、資料が契約書の写しであると認めたものの、内訳書については「契約締結の際の参考資料」と説明。内訳書に記載されている「単価」は「必要な経費やバックヤードの費用を含むものと推測され、人件費単価そのものではない」としている。

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