尾崎治夫(おざき・はるお)/1951年、東京都生まれ。順天堂大学卒、医学博士。東京都医師会副会長を経て、2015年から現職。東京都東久留米市で「おざき内科循環器科クリニック」を開業 (c)朝日新聞社
尾崎治夫(おざき・はるお)/1951年、東京都生まれ。順天堂大学卒、医学博士。東京都医師会副会長を経て、2015年から現職。東京都東久留米市で「おざき内科循環器科クリニック」を開業 (c)朝日新聞社
AERA 2021年5月24日号より
AERA 2021年5月24日号より

 緊急事態宣言が発出されても、全国的な感染の拡大に歯止めがかかっていない。いま国内で何が起きていて、今後どうなるのか。AERA 2021年5月24日号で、東京都医師会の尾崎治夫会長に聞いた。

【図】新型コロナ感染 重傷者数の推移

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――緊急事態宣言の対象が9都道府県に広がり、期間も5月末まで延長された。まん延防止等重点措置対象の自治体も増えている。第4波が収まる気配は見えない。

 緊急事態宣言の目的は、人の流れを抑え、人と人との接触を減らし、感染の拡大を防ぐことです。今回の宣言発出による人流抑制効果がなかったとは考えていません。

 東京都医学総合研究所がNTTドコモの提供するデータを使って主要繁華街への人出を調べた「滞留人口モニタリング」によると、4月25日に3回目の緊急事態宣言が発出された後、都内の繁華街にいる人口は宣言前に比べて夜間に51%、昼間は40%減少しました。自宅から3~5キロ圏内で生活している都民も6~7割いて、それぐらいの人がステイホーム生活を送っていると推察できました。都内では人と人の接触が3~4割は減ったと考えられます。

 1人の感染者から平均何人に感染を広げるかという「実効再生産数」は、宣言発出前には1.25近くまで上がっていましたが、従来株であれば、これだけ人流が減れば、0.7程度には下がったはずです。しかし、実際は、感染力の高い変異株が増え、1.0をわずかに下回る程度にまでしか下がっていません。1.0を下回れば感染者が爆発的に増えることはありませんが、期待したほどは下がりませんでした。いま、私たちは、感染者数を減少傾向にし、流行の山を下げる、ピークアウトができるかどうかの分かれ目にいると考えています。

 一方、ゴールデンウィーク後、北海道を含め、観光地のある自治体で感染増が報告されました。感染増後に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を出す、といった目先の状況だけを見て限定的に対策を取るのでは、もはや対処しきれない状態といえます。全国的に網をかけないと、感染は全国に広がっていくでしょう。

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