■「絶望的」になる可能性

――緊急事態宣言の延長で、「安心安全な」五輪開催は現実的になるのだろうか。

 これまでの下げ幅でしか減らないとすれば、緊急事態宣言の続く5月末までには、都内の1日当たりの新規感染者数はせいぜい500人程度までしか下がらないのではないかと思います。そこで宣言を解除すれば、従来株より1.5倍程度感染力の強い変異株がまん延している中で、1カ月もたたずに感染者増が始まるでしょう。そうなれば、五輪開幕直前に大流行になり、五輪開催は絶望的になる可能性があります。

 第5波が起これば、首相が7月末までに終えると宣言している、高齢者へのワクチン接種にも影響してくると思います。感染拡大の最中に大人数が一堂に集まる集団接種会場に行くのは、高齢者にとってむしろ危険です。

 このままの状況であれば、5月末では宣言を解除しない賢明な政府であってほしいと思います。

 五輪開催の是非については、5月末の感染状況と、それを踏まえた上で政府が緊急事態宣言などの措置についてどのように判断するのかを見た上で、東京都医師会長としての立場を表明したいと考えています。

――第4波では関西で、病院で治療を受けられずに亡くなる人が出ている。海外に比べて感染者の実数は少ないのに、緊急事態宣言を出さざるを得ない状況になる一因として、医療の脆弱性が指摘されている。病床数は少なくないはずなのに、なぜか。

 日本の皆保険制度は、全国民が「誰でも・どこでも・いつでも受診できる」というフリーアクセスがメリットです。その制度を支えてきたのは、全体の8割を占める民間病院です。そして、民間病院は中小規模が多いのです。

 病院数が多ければ、統計的には人口当たりの病床数や医療従事者の数が多く見えます。しかし、新型コロナウイルス感染症では1人の患者の診療に、大勢の医療従事者が必要です。コロナ患者を受け入れられる大規模な病院は、国公立も含めてそれほど多くないのです。
医療崩壊は防げる

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