「配達員は個人事業主であっても契約が一方的に決まるなど、雇用労働者に近い働き方をし、『広い意味での労働者』に当たると考えています」

 団交拒否の理由について、ウーバーイーツ日本法人は本誌の取材に、「係争中の事案につき、お答えすることはできません」と回答した。

「労働政策研究・研修機構」統括研究員の呉学殊(オウハクスウ)さんは、「労働性が認められないから組合に対応しない」とするウーバーの姿勢を厳しく批判する。

「デリバリーサービスは、配達員がいなければ成り立たない産業。労働組合は、働き手の声を集めそれを会社に伝えようとする、会社発展のためになる経営資源です。労働者性があるかどうかは別にして、配達員の声を吸い上げることが産業の発展につながる。それを『雇用労働者』ではないからと『壁』をつくり、門前払いする対応は産業の発展にプラスにならない」

■韓国最大手は労働協約結ぶ 交渉は会社に有益と判断

 韓国の労働問題にも詳しい呉さんによれば、韓国では昨年10月、国内最大手のフードデリバリー「配達の民族」を展開するウーワ・ブラザーズ社が、配達員でつくる労働組合と労働協約を結んだという。さらにウーワは、健康診断の費用10万ウォン(約9600円)の補助や長期継続の配達員に夏冬に各10万ウォン相当のギフト支給、実費で100万ウォン以内の休暇支援費の支給などで組合と合意した。

 呉さんは、労使対立が激しいとされている韓国で、しかもデリバリー業界レベルの労使で自律的な協約が締結されたことは画期的だと言う。

「プラットフォームのシステムに隠れた透明事業主でなく、システムの最終受益者として自分の存在を配達員に明らかに示した。実物事業主として責任ある行動だと高く評価できる。ウーワは、組合の声を吸い上げ彼らと協議・交渉するのが会社の発展にとって有益になると考えたのだと思います」

 さらに呉さんは、ウーバーが配達員の報酬を一方的に下げたとされる件については「突き詰めていけば人権の問題だ」と指弾する。

「労働条件の『不利益変更』が行われる場合、企業はまず当事者としっかり協議し、不利益を被る人がある程度納得して新しい制度の導入に合意できる環境をつくらなければならない。ウーバーが合理的な説明もなく報酬を下げたのであれば、労働者を人間として尊重していないと言っていい」

 日本のフードデリバリーは過渡期にある。デリバリーは社会から求められる産業だが、そこで働く配達員は「最底辺にいる」と見られることもある。そんなイメージを払拭(ふっしょく)するためにも、配達員が安心して働けることが大切だ。働く人との対話が、企業が変わり成長する一歩になる。

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年5月3日-5月10日合併号より抜粋

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら