電池・電子製品メーカーのFDK(東京都港区)は、1月から「道場」と名付けたリバース・メンタリングを始めた。業務時間外に社員が「道場主」になり、仕事でもスポーツでも趣味でも、自由なテーマで同僚や上司に教える仕組みだ。
きっかけは、2年前に親会社の富士通からやってきた長野良社長の経験だった。
「私は文系で、ど素人。若手でもいいから、誰かに解説してもらいたいとお願いして、元素記号から説明してもらいました」
長野氏は工場で開かれる自主研究会にも参加して知見を深めてきた。だが、初歩的な質問と「そうなんですね、いい取り組みだから進めてください」としか言えなかった。しかし、そこで気付いたことがある。「社内はプロフェッショナルの集まり。だから、私の他にも教わりたい、教えたい人がいるのではないかと考えました」
FDKには、プロパーの社員だけでなく、いろんな業界の経験者がいる。みんなを一つにしたい。たどり着いたのが、リバース・メンタリングだった。
「伝統的な企業では、苦労して上に立った課長や部長は、偉いんだというヒエラルキーがある。そうなると、上司が部下に学ぶという発想は出てこないし、抵抗感もあるでしょう。でも、それを崩したい。若い人も教える立場になれる趣味的な雰囲気の道場で、世代を超えてコミュニケーションが取れれば、社内の垣根を取り払う原動力となるはずです」
■年功序列が普及を阻む
国内でもリバース・メンタリングによる好事例がでてきた。だが、まだ導入企業は少ない。
リバース・メンタリングに詳しい富士通フューチャースタディーズ・センター研究主幹の吉田倫子さんは、こう話す。
「組織内での経験や年齢が重視されがちな日本では、根付きにくいかもしれません。新しい制度のようにみえますが、若者から学ぶことは歴史上あった。少なくとも、1960年代に富士通の当時の社長が、専門外の半導体を学ぼうと新卒の若い技術者を社長室に呼んで、講義をさせた例があります。リバース・メンタリングとは呼んでいなくても、同様の事例が、いまも全国で行われていると思います」