金総書記は女性関係に放埒で、正妻の金英淑(キムヨンスク)氏のほか、17年に暗殺された金正男(キムジョンナム)氏の母、成恵琳(ソンヘリム)氏や正恩・与正兄妹の母、高英姫(コヨンヒ)氏らと次々に内縁関係を結んだ。側近たちとの秘密パーティーには「喜び組」と呼ばれる女性の接待係を呼んだ。当時の平壌では、「街を歩けば、1日に1度は将軍様と似た顔に出会う(それだけお手つきが多い)」という笑えないジョークが流行したという。

 男尊女卑、家父長制度という朝鮮王朝時代の遺物が、金総書記の女性に対するゆがんだ考え方と相まって、そのまま北朝鮮社会に残る結果になった。

■ミニスカは注意の対象

 金総書記率いる北朝鮮は女性に「主体性」を求めた。それは、「女性らしさ」を求めるという男性の目線から決めた独りよがりな基準だった。最近では見られなくなったが、女性はチマ(スカート)姿が基本で、自転車に乗ってはいけないとされた。現在でも、北朝鮮では髪の色を黒以外に染めることは認められていない。体にぴったり合う服や、肌を多く露出するタンクトップやミニスカート姿で街を歩けば、「糾察隊(キュチャルデ)」と呼ばれる風紀担当者に注意される。

「女性は30歳前には結婚するものだ」というのが社会通念になっている。結婚は自由恋愛もあるが、まだまだ親や職場の上司の紹介でのお見合い結婚が多い。家庭を持てば、子どもを産むのが当たり前だとみられてもいる。ただ、平壌でも経済難のため、事実上「一人っ子政策」が推奨されているという。

 職業にも偏りがある。北朝鮮の保健医療事情に詳しい韓国の安景洙(アンキョンス)統一医療研究センター長によれば、北朝鮮の看護師はほぼ全員女性で、しかも結婚すると退職する人が多い。教育現場や保育施設などは女性が多いが、大学教育現場では男性が多数を占める。北朝鮮が3月に開いた市・郡党責任書記講習会の参加者は、国営テレビの映像を見る限りでは全員男性だった。

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