そうではあるが、同時に、もう少し、陛下ならではの言葉があれば、と思ったのも事実だ。なかったわけではない。例えばいかにも陛下らしいと思ったのが、国民を思い、寄り添い、ねぎらい、励ますことの大切さに触れた場面。陛下はこう言った。

「それは、私と雅子二人の自然な気持ちであるとともに、皇室としての大事な務めであるとも思います」

 陛下は会見の場でも、雅子さまのことを「雅子」と表現する。上皇さま美智子さまを「皇后」と表現していたから、大きな変化だ。そして今回、最初の「雅子」がここだった。国民に寄り添うのは、「私と雅子二人の自然な気持ち」だと最初に述べ、それから「皇室としての大事な務めである」としたのだ。

■頼もしくなったと笑顔

 ああ陛下は、一人の人間であることを大切にしているのだ。そう感じた。背景にあるのは、皇太子妃時代、その立場ゆえに適応障害という病を得た雅子さまを思う心だろう。その後に現れた陛下のふいの笑顔を見て、その感覚は一層強くなった。

 会見で陛下は、ずっと緊張した様子だった。黒い書類入れの中から取り出した紙に時折目をやりながら語った。時折しか見ないということは、逆に言えば、ほとんど覚えているということで、そんな真面目な陛下が笑ったのは、二つ目の質問「ご家族について」のときだった。

 陛下は、雅子さまのことより少し長く、今年12月に成人を迎える愛子さまについて語った。昨年10月、愛子さまは学習院大学に入学して初めて登校、「新しい知識を得たときに感じられる喜びを大切にしながら、様々なことに取り組んでいければと思っています」と記者に語った。その言葉を引用し、「大学での勉強に意欲的に取り組んでいることを私と雅子もうれしく思い、また、少し頼もしくなったように感じております」と述べ、頬を緩めた。テレビカメラが映した唯一の笑顔だった。

 さて宮内記者会は4番目の質問として、皇位継承について聞いた。ヨーロッパ王室で広がる「性別によらない長子優先の継承」に触れ、「皇室の歴史や伝統と、世界的に進むジェンダー平等や女性の活躍推進の動きについて、陛下はどのようにお考えでしょうか」と。

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