■がんじがらめで執務

 今回は、言いがかりとも言える選挙の不正を口実に、このUSDPのミンスエ第一副大統領が最初に非常事態宣言に動き、国軍はその呼びかけに応じたに過ぎないというロジックである。シナリオ通り、ミンアウンフライン国軍最高指令官が全権を握り、ミンスエ氏が臨時大統領になった現在、国軍がクーデターではなく、憲法にのっとった正当なものだと喧伝しているのは、そこに論拠がある。08年新憲法には国家元首の資格に「20年以上ミャンマーに居住した者」とあり、英国で教育を受けてきたスーチー氏を意図的に除外する内容も含まれている。

 今思えば、いつ爆発するかもわからない時限爆弾のような軍事クーデターの恐怖を脇に、手かせ足かせをはめられたがんじがらめの中で、スーチー氏は執務を続けていた。

 2月3日、ミャンマー警察はスーチー氏を無線機を違法に輸入したとして、輸出入法違反で訴追している。完全な後付け逮捕である。国軍はこれまで国際世論に対する盾として彼女を利用してきた。最高顧問であったスーチー氏が矢面に立たされてきた境遇をロヒンギャ(ラカイン州のイスラム教徒)の弾圧の現場から検証してみる。

 17年8月26日。国軍によるロヒンギャに対する軍事掃討作戦が突然始まった日、偶然、私は現場となったラカイン州のシットウエにいた。取材をアテンドしてくれたアラカン(ラカイン州の仏教徒)の男性は「これから軍の非道が延々と続くだろう」と断言していた。アラカンは同州でロヒンギャと対立してきた民族である。同じ地域に暮らす少数民族同士が分断を図られ、そう仕向けられてきたのは、軍の扇動だったと気づき、ロヒンギャに対する憐憫(れんびん)の情があるとまで言い切った。彼の予言は残念なことに当たってしまった。
軍を掌握できていない

 この日より、国軍がロヒンギャに対して犯した人道に反する罪は、凄惨を極めた。民家に火をつけ、無抵抗の住民を拉致して殺害、女性に対する忌まわしい組織的レイプも数多く報告されている。20人以上の被害者から聞いた手口は、マニュアル化されているように同じやり口だ。加害者兵士の顔を覚えないようにヒジャブで目隠しさせられ、複数の軍人に性行為を強要される。「性的テロリズム」で同じ土地に帰ってくることのないよう恐怖心を植えつけられた上で国外に追い出されるのだ。「民族浄化」は延々と続き、ロヒンギャ難民は隣国バングラディッシュに約80万人が逃れている。

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