新大統領は、きまって前政権の負の遺産と決別する意思表明を行う。オバマ氏は2009年、「ホコリを振り払おう(dust ourselves off)」と詩のように表現し、トランプ氏は17年、「米国民を皆殺しにしてきた時代は、今ここで終わる(This American carnage stops right here and stops right now.)」と過激な言葉で自国第一主義を宣言した。

 バイデン氏の演説には、敗北を認めない前任者とその支持者たちに向けた言葉が、時に遠回しに、時にはっきりと、随所に盛り込まれ、それらが団結を求めるメッセージへとつながっていたのが特徴的だった。「民主主義は尊くも脆(もろ)いということを、改めて学んだ。そして今、民主主義が勝利した(We’ve learned again that democracy is precious. Democracy is fragile. At this hour, democracy has prevailed.)」。「事実そのものがごまかされたり、ましてやでっち上げられたりするような文化を許容してはならない(We must reject the culture in which facts themselves are manipulated and even manufactured.)」。米国議会占拠事件は「国内テロ(domestic terrorism)」と位置付けた。

 二大政党の対立、地域格差、保守対リベラル。こうした分断を、バイデン氏は「他者への配慮のない戦い(uncivil war)」と称した。そして、この不毛な戦いを終わらせるカギは共感力だと訴える場面では、誰にでもわかる言葉を使った。「私のお母さんが言いそうなことだが、相手の立場に立って考えよう(stand in the other person’s shoes, as my mom would say)」。

AERA 2021年2月1日号