李明博(イミョンバク)政権の大統領府高官は当時、日本の新聞社に情報提供した。翌日、この幹部は大統領府に出向していた国情院関係者から注意を受けた。関係者が見せたメモには、幹部が新聞社に漏らした情報が逐一再現されていた。新聞社が東京の本社にメールで送ったメモをハッキングしたからだった。

 国情院はこうした行動を日本の警察当局にも期待した。もちろん、日本ではこうした行動は違法になる。国情院の前身、安企部は91年、東京のホテルオークラに投宿した高英姫氏と金正恩氏親子の情報を警察にリークしたこともある。ホテルの部屋を盗聴することを期待したからだが、警察当局はそこまで踏み切れなかったという。

 日本では心強い味方にもなる国情院だが、ソウルでは日本人をスパイ扱いする怖い組織でもある。筆者もソウル駐在時代、何度も尾行された。筆者と会った韓国政府当局者が、記事のリーク元だと疑われて何度も事情聴取を受ける憂き目にも遭った。映画で語られたのは40年以上も前の風景であり、権限縮小の声も絶えないが、情報・工作機関としての姿は現代にそのまま引き継がれている。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2021年2月1日号より抜粋