「秋のどこかで衆院選を行わなければならない」

 言い換えれば、秋まで衆議院を解散しないというその一言に一瞬、会場が静まりかえった。時の首相が自らの専権事項である衆議院解散について、その時期を特定して言及することは極めて異例だ。結局、会見後、官邸は「秋までのどこかで」の間違いだと訂正に追われた。

 しかし、今年の政治スケジュールから逆算すると、衆議院解散のタイミングは二つに絞られる。一つは「春」。本予算成立後の3月説、もしくは、4月下旬に開催される補欠選挙(衆院北海道2区、参議院長野選挙区)との同日選説だ。

 もう一つは「秋」。五輪、パラリンピック後の9月説だ。永田町では、菅首相の「秋のどこかで」発言は、そもそも言い間違えではなく本音ではないのかと推察する人は多い。

 仮に緊急事態宣言が効果をあげ、ワクチン接種が前倒しになったとしても、4カ月後の選挙を想像できるだろうか。首相本人も「春」は到底無理だと高をくくっているのではないか。

 菅首相が描くベストシナリオは「コロナを収束させ、五輪を開催し、支持率を復活させてから選挙に臨み、自民党総裁選でも満を持して再選される」ことだ。しかし、この数カ月で収束のめどを立てられなければ、総裁選を前倒しし、新たな首相の下で総選挙をという「菅おろし」の風が吹く。そうなると選挙を前に自民党内の派閥闘争を国民の面前にさらすことになる。

 いずれにしてもカギになるのは、新型コロナ感染症の拡大収束だ。その意味では2021年もコロナ政局に翻弄される一年になることは間違いない。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年1月18日号より抜粋