緊急性の高い医薬品について通常よりも簡素化した手続きで出される「特例承認」の対象になるものの、申請には小規模でも国内における治験データが必要だ。ファイザーは18日、特例承認を申請したが、アストラゼネカはまだで、モデルナは治験もまだ始まっていない。審査には月単位の時間が必要と考えられている。

 承認が下りて接種が始まっても、まずは医療従事者や患者と接する保健所職員、検疫所職員、高齢者施設の職員、高齢者、持病のある人が優先的に接種を受ける。それ以外の人がワクチンを接種できるようになるのは、来年夏以降になるとみられる。

 しかも、石井教授はこう警告する。

「ワクチン接種が始まればすぐに元の生活に戻れるというわけではない。ワクチンの効果の中身や、効果の持続期間は、現時点ではまだよくわかっていない。当面は3密を避ける、屋内ではマスクを着用する、といった行動を続ける必要がある」

 ワクチンの効果は、▽感染を防ぐ▽感染しても症状が出るのを防ぐ▽重症化を防ぐ、という3種類が考えられる。各ワクチンが、どの効果を持っているのかはまだ詳しく解明されていない。もし症状が出るのを防いでも感染を防がないなら、無症状で本人も周囲も気がつかないまま、感染を広める人が増えることになるかもしれない。

 効果の持続期間も、治験開始から長くても半年ほどしか経っておらず、今後の経過観察を待たないとわからない。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号より抜粋