元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
仕事場として使わせて頂いているカフェに最近、可愛い花が飾られるようになって嬉しい(写真:本人提供)
仕事場として使わせて頂いているカフェに最近、可愛い花が飾られるようになって嬉しい(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが仕事場として使うカフェに最近飾られたものは…

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老後に備えて買った家を「貸す」気満々でコトに臨んだはずが、結局は「売る」選択をした私。これが正しかったかはわからないが、人はいつだって決断をしなければ前に進めない。なので今回は正直にその理由を記す。これを読み、自分ならどうしたかを考えるのも一興と思います。

 決め手になったのは不動産屋さんとのやりとりである。プロとは全くエライもんで、電話で「貸したいんだが借り手がつかないなら売ることも考えないわけではない」「とにかく空き家にしておきたくない」「ド素人なので一から相談に乗って欲しい」とお願いしたところ、バリッとスーツを着た青年が春風のように颯爽とやってきた。

 いや私、心から感動したね。家を貸すってそもそも手数料払って不動産屋を通さなきゃダメ?などという素朴すぎるウザい質問を繰り出しまくる私を見下したり苛立ったりすることなど全くなく、すべてに理路整然と回答が。若いのに大したもんだ。日本の未来は明るいね!

 ……などという話はさておき、このエクセレントな青年は「売ることも考えないわけではない」という私の一言を尊重し、一区切りついたところで「念のためですが売る場合はどうなるかという説明もさせて頂きますネ」と資料一式を取り出した。結論から言うと、この「念のため」の説明を聞き、私の心は一気に売却へと動いたのだ。

 ちなみにこの時点で過去の実績からはじき出した売却価格も提示され、その時点で想定をはるかに超える衝撃激安値であった。それでも売る方が良いと思ったのは、貸した際と売った際のメリット・デメリットの説明である。

 貸せば毎月の安定収入が得られる一方、古マンションでは家賃も吹っ飛ぶ修繕費の請求も珍しくない。また借り手も人なので何が起きるかわからない。最悪、事件・事故現場になることも。なるほど。儲けばかり考えていたが、家主になるとは店子を得ること。我が子のごとくとことん付き合う覚悟がなくてはダメなのだ(さらにつづく)。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2020年12月21日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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