「コロナの影響が長引くなかで経済的な不安や、見通しの立たないストレスが人間関係の問題にまで連鎖し、家庭内などの閉ざされた中での暴力やストレスが、より弱い人に向けられている状況がある」

■有名人の事例も影響

 地震などの災害は地域一帯が甚大な被害を受けるが、コロナによる経済的ダメージは職種や業種によってさまざま。清水さんは「周囲と比較し『自分だけ置き去りにされている』と感じることも自殺のリスクを高めかねない」と懸念する。

 日別の自殺者数を見ると芸能人の事例が報道された日以降に急増している。女性の増加率は特に高く、俳優の竹内結子さんの報道後の2週間は、前年同期間と比べて20~40代女性の自殺者数が2倍以上だった。

 日本自殺予防学会理事の太刀川弘和・筑波大学教授はコロナ禍における「孤立」を指摘する。

「誰かとつながっていることは、生きる意味でも大切なことですが、コロナ禍では人に会ったり、訪問して見守ったりということが物理的に難しい」

 これまで男性より女性の自殺者が少ない理由に、人に悩みを打ち明けやすい傾向が挙げられてきたが、コロナ禍ではおしゃべりの機会も激減している。

 世界保健機関(WHO)の統計では、死に追いこまれた人の9割が何らかの精神疾患を抱えているとするが、「うつ状態になると、冷静な判断ができず、死ぬしかないという心理的視野狭窄に陥ってしまうこともある。周りの人が声をかけて話を聞くことで、視野を広げてあげてほしい」(太刀川さん)

「産後うつ」のリスクも高まっている。筑波大学の松島みどり准教授と助産師の研究グループが、子育て関連アプリ提供企業と合同で10月に行った調査で、約24%(速報値)の母親に産後にうつの傾向が見られた。WHOは10%前後が産後にうつ症状を発症する恐れがあるとしているが、倍増している可能性もある。

「感染を恐れて里帰り出産や産後の親のサポートを控え、人に会う機会も減らしている状況がある。また、家計の収入が減少している人の中にうつの傾向を示す人が多い。本人も周囲も『出産は幸せなもの』として捉える傾向が強いが、誰しも産後はうつリスクが高まる時期であり、コロナでサポートが減ればそのリスクがさらに高まっていても不思議ではない」(松島さん)

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