良質な情報を必要な人に送り届ける。分断を狙ったフェイクニュースが飛び交う中、この難しい課題に挑む(撮影/家老芳美)
良質な情報を必要な人に送り届ける。分断を狙ったフェイクニュースが飛び交う中、この難しい課題に挑む(撮影/家老芳美)
本社にあるフリースタイルスペースは、自由な発想でアイデアが湧いてくるような空間だ。全部で17部屋ある会議室にはそれぞれ世界の偉人の名前が付き、関係する本が並べられている(撮影/家老芳美)
本社にあるフリースタイルスペースは、自由な発想でアイデアが湧いてくるような空間だ。全部で17部屋ある会議室にはそれぞれ世界の偉人の名前が付き、関係する本が並べられている(撮影/家老芳美)

 スマートニュース代表取締役会長兼社長CEO、鈴木健。企業価値1千億円を超えるベンチャー企業を率いるトップであり、新たな社会システムを提唱する研究者の顔も持つ。小さなころから、のめり込む性格。一輪車にサッカーにゲーム。そしてニュートンを知り、研究者になろうと決意。やがて、シリコンバレーに刺激を受け起業家にもなった。鈴木健は、なめらかな社会の構築のために思索し、奔走する。

【写真】本社にあるフリースタイルスペースはアイデアが湧いてくるような空間だ

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 鈴木健(すずきけん)(45)は10月中旬から4週間、大統領選の視察のために米国を渡り歩いていた。ウィスコンシン、オハイオ、ネバダなど共和党と民主党の支持率が拮抗し、今回の大統領選でも激戦が繰り広げられた州を中心に6州を回った。

 数千人が集まる大規模集会から100人単位のものまで全部で10カ所ほど。白人至上主義者も出入りする保守層の集会に日本人が参加するのはリスクも伴うが、気に留める様子はない。鈴木は興奮状態にある共和党集会に入り込み、有権者に「何を理由に投票するのか」と尋ねると、トランプ支持者の一人はこう答えた。

「だって、トランプ大統領はいままでやると言ってきた約束をすべて守っているから」

 一方、新型コロナウイルスの感染対策からドライブイン形式で開かれた民主党集会では、静かな会場の外でトランプ支持者たちがクラクションを鳴らす異様な光景が広がっていた。鈴木が先ほどと同じ質問をすると、民主党支持者の一人は「トランプ大統領のやっていることは全てダメ」とこの4年間の政策を全否定した。鈴木が言う。

「保守層とリベラル層の間で相互のコミュニケーションが成立しにくくなっている。4年前は保守層だけがリベラル層にネガティブな感情を抱いていた。ところが今回はリベラル層も保守層に強い嫌悪感を持っている。相互不信や分断が激しさを増した格好だ」

 鈴木は2012年にアプリを使って日本とアメリカでニュースを配信するスマートニュースを立ち上げて以降、大統領選の視察を繰り返してきた。16年の前回は多忙の合間を縫って5回以上、全米各地を回った。集会に参加するだけでなく、勢いを増す保守層の人々を集めて意見を聞く。スマートフォンの使用目的やどんなニュースアプリを使っているかも同時に尋ね歩いた。

■ニュートンをきっかけに物理学者になろうと考える

 スマートニュースが提供するサービスは、新聞社や通信社などのニュースを集めてスマートフォン上で提供するニュースアグリゲーションだ。毎日3千以上の媒体の記事から、人工知能が注目度や重要性の高いものを選び出して配信する。自ら取材して報道するわけではないのに鈴木が視察にこだわる姿勢を、友人でスタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチスカラーの櫛田健児(41)はこう分析する。

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