綿矢:みつ子の“悲鳴”のような気持ちで書いていた言葉です。とても自然なせりふに聞こえました。確かに「くいとめて」という言葉はなかなか口にしないので、私も文字としては書くけれど、せりふにしていただけるとは思っていなかったです(笑)。大九監督は少し硬いせりふも現代的なやりとりのなかで表現してくださると感じています。

のん:タイトルにもなっている、素晴らしい言葉なので、自分が台無しにしてしまうのではないか、という恐れもありました。あのような“鋭い言葉”は、どのようにして生まれるのですか。

綿矢:最初の段階で書いているのは普段使っているような言葉なのですが、2回、3回と見直すなかで、少しずつ日常の言葉から離れていく。単語を置き換えていくと、元の意味とは一緒だけれど、少し工夫したような言葉になるんです。今回は「助けて」というような言葉を、違う言葉で伝えたいという気持ちがありました。映画でも、もう1、2段階と発想を飛ばしていくために、工夫されていることって、きっとありますよね。

のん:映画でしか観られないものってありますし、演技で何かを残したいという気持ちがあるので、役に対して薄っぺらい解釈をしたくないな、という気持ちはあります。

 そのために、原作を“攻略本”として読んだり、台本のなかに隠されていることをくみ取ったりするようにしています。台本からどれだけ拾えるかで、役がよりドラマチックになるというか。みつ子自身は意識していないかもしれないけれど、原作や台本を読むことで「こういうことだよな」とわかる瞬間がある。それを、見落とさないようにしたいと思っています。

のん/1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。俳優、創作あーちすと。主な出演作に、声の出演となる「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019)、「星屑の町」(20)など

綿矢りさ(わたや・りさ)/1984年生まれ、京都府出身。2001年、『インストール』で第38回文藝賞、04年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞を受賞。『勝手にふるえてろ』『憤死』など著作多数

大九明子(おおく・あきこ)/横浜市出身。主な作品に、「恋するマドリ」(2007)、第30回東京国際映画祭コンペティション部門・観客賞「勝手にふるえてろ」(17)、「甘いお酒でうがい」(20)など

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年12月14日号