実は、新聞広告には一部ネタバレを含む内容も入っている。

 例えば、朝日新聞の4日朝刊には、前述のように炭治郎の妹、禰豆子が掲載されているが、アニメの禰豆子とは面影が異なる。アニメ本編ではいつも竹をくわえていたが、広告に映っているのは大人びた女性のそれだ。

 これが何を意味するかはここでは伏せるが、22巻の最後と大きく関わるとだけ言っておこう。原作読者なら感慨深い描写でもあり、この広告の心憎い演出でもあるのだ。
               
 全面広告が、幅広い層に話題性を作りつつも原作ファンをターゲットとしていると考えられることからもわかるように、集英社のある種冷静ともいえるマーケティングは、最終巻の初版発行部数にも表れている、と筆者は考えている。

 23巻の発行部数は395万部と発表され、「鬼滅の刃」が掲載されていた週刊少年ジャンプ史上最高とならなかった。

 現在、「鬼滅」人気はすさまじく、コラボした蒸気機関車乗車券からお菓子までが様々な商品が人気を博している。そして今回の新聞広告まで、転売されるものも多い。最終23巻も同様に「転売屋」によって買い占められ、ネットで転売される現象も起きている。

「投機的」な動きすらある「鬼滅」関連グッズだが、その多くはアニメ由来だ。アニメからブームに火がつき、アニメファンが社会現象の原動力となっていることは間違いないが、このファンのうちどれだけの人が原作漫画を最後まで読んでいるかというと、状況は変わってくる。

 つまり、「鬼滅」最終巻の395万部という数字はこうした動きに惑わされることなく、集英社が冷静に「どれだけ原作ファンがいるか」という実需を見定めて出した数字だと考えられる。

 言い換えれば、鬼滅最終巻は「記念グッズ」ではなく、23巻にも及ぶ続き物の最終巻という「読み物」であるという原点を、集英社が忘れていないともいえるだろう。

 23巻まで続く物語に対して、ファンに対して、丁寧な展開をしたからこそ、その広告も当然それに沿ったものになったと考えられる。

「鬼滅」のアニメは劇場版まで含めても、全23巻のうち、まだ3分の1の、8巻の途中までが終わったに過ぎない。原作を読んだ身としては、「ここからが本番」と言える展開だ。アニメの続編も検討されているものの発表はなく、放送がいつになるかはわからない。

 アニメの放送を待つのも手かもしれない。だが、作品の醍醐味は原作にこそ眠っている。特に「鬼滅」新聞広告を見て続きが気になったという人は、原作漫画も読み進めてもらいたい。(ジャーナリスト 河嶌太郎)

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