長野:第2のトランプへの期待もそうですし、トランプ自身も居続けますよね。昔と違ってSNSがあるわけで、トランプはおそらくツイッターを通して発信し続けるかと。不満はあっても良識的に抑え込まれていた差別問題などが、リーダーであるトランプが進んで差別的な発言をすることで、「言ってもいいんだ」という空気になってしまった。トランプが開けてしまったパンドラの箱の、影のリーダーみたいに存在していくことで、米国の不安定要素は続くのではと思います。

星:そうですね、いずれにしてもトランプ的な価値観は残るでしょうね。常識や理性を大切にするオバマが守旧派みたいな扱いになって、タブー視されてきたことをひっくり返すトランプが改革派という、倒錯した位置関係になってしまっている。

長野:今回の選挙で、良識的な価値観に揺り戻されたと思うんですけど……、星さんはそれを正しいと思われていますよね?

星:ええ、世界標準の価値観に戻ったことは確かでしょう。

長野:私はもはや、それが本当に正しいのかどうかわからなくなってしまったんです。トランプが壊した米国のエスタブリッシュメントにだって問題はあったわけで、それを壊したことが「ネガティブ」という感覚でいていいのかなっていう思いがある。私は絶対に良識派が好きなはずなのに、どこかモヤってしまう感情が自分のなかに新しく生まれたんです。

星:トランプ的政治はまずいという気持ちは、相当数生まれたんじゃないかな?

長野:相当数、いますか? 意外と共感してもらえないんですよ。友だちにモヤってるって言うと、「大丈夫!?」って心配される。

星:それは、長野さんのほうが感受性が高いんじゃない?
長野 このモヤりをどうしていいかわからない、なう、みたいな感じです(笑)。

●名物記者がいなくなる

星:さっきの、トランプっていう嫌われ者がいなくなったとき、メディアが耐えられるかっていう話だけど。

長野:私、2000年から5回にわたって大統領選を取材してきたんですが、4年前までずっと、「日本の人、もっと興味持ってよ!」っていうくらい、数字が……視聴率が伸びなかったんです。でも今年は、びっくりするくらいメディアで取り上げられた。あれはやっぱりトランプが「おいしい」から、数字を持っているからですよね。

星:トランプは絵が強いから、もっと使いましょうとか、そういう声はもちろんありました。だけど、トランプと外交とか社会保障とかの話をしようとなると意外とボツをくらう。要はトランプを絵物として使っているわけです。一方で、バイデンの環境対策や財政再建の話では、まったく絵にならない。カマラ・ハリスだって毎日は演説してくれませんから、米国のメディアがそのうち「これじゃつまらないな」と考え出して、政治に変な影響を与えるんじゃないかと心配なんです。

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