消えゆく言葉がある一方、新たな言葉も次々に生まれている。新型コロナ禍では新しい外来語が注目されたが、若者言葉の一般化も起こっている。

 大迫さんが挙げるのは、名詞や体言に「る」を付けて動詞化する表現だ。

「『メモる』や『パニクる』などは既に広辞苑にも掲載されるなど一般化してきました。『デコる』『ディスる』など新たな表現も続々と出てきています。語感がよく、すぐに状況がイメージできる言葉が多い。まだまだ広がるでしょう」

 一方、東洋大学の三宅和子教授(社会言語学)は新たな感情表現に注目する。自分の「感覚・気持ち」を「現象」に置き換えて表現するケースが増えているという。

「心のひだに触れることを『刺さる』、ショックを受けることを『へこむ』などと表現するようになりましたが、本来は物理現象を表す言葉です。若者から広がって、社会全体に受け入れられつつある。間接的表現を好む日本語の伝統に根差したこんなうまい表現は、今後も広まると思います」

 消える言葉あれば、生まれる言葉もあり。ただし、基本的な動作を表す動詞や存在を意味する固有名詞など、ほとんど変わらない言葉もある。日本語のコアを大切にしつつ、移り変わる言葉を楽しみたい。(編集部・川口穣)

AERA 2020年11月23日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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