イラスト:土井ラブ平
イラスト:土井ラブ平

 言葉は時代とともに変化するのが常だ。「チャンネルを回す」「電話帳」「写真を現像する」などの言葉が消滅しつつある一方で、新たな用法や表現も日々生まれている。AERA2020年11月23日号では、令和に消えつつある言葉・定着しつつある新しい言葉を取材した。

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 埼玉県の会社員の男性(38)は、後輩に全く話が通じなかったという。

「『昨日、久々にダブルヘッダーでさ』と言ったら、ポカンとされた。何を意味するかだけでなく、ダブルヘッダーという言葉自体知らないようでした」

 ダブルヘッダーとは、主に野球の試合で同じチーム同士が1日に2試合を行うこと。相手を替えて2戦する場合は「変則ダブルヘッダー」だ。転じて、同じ行為を1日に2回繰り返すことをこう表現する。日本のプロ野球でもかつては盛んにダブルヘッダーが組まれたが、近年はほとんど見られない。実際に行われたのは98年が最後だ。

 いわゆる流行語も、多くはブームが去ると使われなくなる。AERAで行ったアンケートでは、「最近使わなくなった言葉」や「若い人や子どもに使うと通じなかった言葉」として「アベック」「テクシー」「ハナ金」「ナウい」などが挙がったが、これらはいずれも一時的な流行語と言える。

 事象の消滅、流行語とならび、社会構造や意識の変化で消えていく言葉もある。書籍編集者で『消えゆく日本の俗語・流行語辞典』などの著書がある大迫秀樹さんはこう話す。

「例えば、昔は結婚せずに優雅に暮らす男性のことを『独身貴族』、女性の場合は『オールドミス』などと言っていましたが今はほとんど使いません。これらは侮蔑的な意味合いが受け入れられなくなった面も大きいですが、社会全体の未婚率が高まり、一般化したことで、『おひとりさま』という語に融合・昇格されたのです」

■消える一方で生まれる

 97年の男女雇用機会均等法改正以降に盛んになった「スチュワーデス→キャビンアテンダント」「保母→保育士」などの言い換えや、差別語とされて使わなくなった言葉も社会構造や意識の変化によるものだ。

「社会の意識が変わると、差別語も変わってきます。LGBT関連など新しい概念にまつわる言葉のなかには、いまは普通に使っていてもいずれ差別語とされる言葉があるかもしれません」(大迫さん)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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